ハンケイ5m

「だれもがマイクの前で自由に話せる。コミュニティラジオを通してマイノリティの声を発信したい」

商店街の一角から「市民の声」を発信するコミュニティFM「京都三条ラジオカフェ」
副放送局長 藤本 香さん

京都市中京区の寺町京極商店街の一角に「市民が主役の放送局」を理念に掲げ、さまざまなラジオ番組を放送しているコミュニティFMがある。「FM79・7MHz 京都三条ラジオカフェ」。日本初のNPOが運営する放送局として2003年3月31日に開局して以来、数々の「市民の声」を電波に乗せてリスナーに届けてきた。「世にあふれている大きな声でなく、まだまだ声の小さい方々に焦点を当てて、発信することを大切にしています」と話すのは、京都三条ラジオカフェの藤本香さん。2016年から運営に携わり、ミキサーディレクターなどを経て、現在は副放送局長を務める。

番組の企画から現場での取材、スタジオ収録まで。藤本さんは番組作りのあらゆる面で、発信者であるパーソナリティーの市民をサポートしている。「『対話は平和の第一歩だ』と言われますが、ラジオは対話のためのひとつの装置でもあると思っています。社会的にマイノリティーの立場に置かれている方々にこそ、ラジオを通して自分の声を発信する機会を提供していきたいです」と語る。

放送エリアは主に京都市内中心部。京都三条ラジオカフェのホームページ内PODCASTから過去の放送を聴くこともできる。

地域の構成員である市民一人ひとりが、より主体的に地域と関わることを通して、多様な価値観を育んでいく。多様性とはつまり、異なる考え方や価値観がそれぞれの違いを認め合いながら、対話を通じて互いの理解を深めていく過程でもある。「市民の声」をラジオ番組として発信し続けている京都三条ラジオカフェは、いわばパーソナリティーとリスナーの対話の場だ。ラジオ番組を通して、異なる価値観を認め合う。そんな橋渡しの役割を担っている。

市民誰もがパーソナリティになることができる。収録後は皆「楽しかった!」と口を揃えるそう。
■ラジオが持つ「不思議な力」で街の多様性を伝える

スマートフォンが普及し、インターネットの動画投稿サイトや音声コンテンツのSNSを使えば、誰もが手軽に情報発信者になれる時代。さまざまなメディアで大量の情報が乱れ飛ぶ時代だからこそ、ラジオという存在が持つ意味はますます重要になってくるのではないかー。藤本さんは、そう考えている。「スタジオに入り、ヘッドホンを着けて、マイクの前に座った人には、スイッチが入るんです。それまでは『話したいことなんてないなぁ』と思っていた人でも、何かを話したい気持ちになる。それが、ラジオという装置が持つ不思議な力だと思います」。

現在、月曜から日曜までの1週間に、約100本の番組を放送している。まちづくりに関することや、京都の文化や伝統に関する話題、防災や福祉、音楽、ジャーナリズムまで、それぞれの番組が扱うテーマは多岐にわたる。共通しているのは、どの番組もパーソナリティが本当に伝えたい情報を自分の声で発信している、ということ。たくさんの個性豊かな「市民の声」は、京都という街の多様性の現れでもある。

本誌『ハンケイ5m』のスペシャルアドバイザー、アドナースの鎌田智広さんも、そんなパーソナリティのひとり。「訪問看護の実際について、携わる自分自身が発信する場を作りたい」という思いから、毎月第2月曜の午後12時半から30分間「行列のできる訪問看護ステーション」という番組を放送し、もう15年になる。

番組では毎回、現場で働いている現役の看護師や訪問介護員をはじめ、医療や福祉に関わる人たち、ときには、身障者、車いすの方をゲストに招いて、それぞれの思いをたっぷり語ってもらう。鎌田さんは「ラジオを通して、病気や障がいについて、特に意識していない普通の人たちに、医療や福祉の現場のさまざまなことを、知ってもらいたいと思っています」と話す。

「語り手にも聞き手にも身体の負担が少ないラジオ。まだまだポテンシャルを感じています」と話す鎌田さん。
■コミュニティラジオでつながる、語り手と聞き手の信頼関係

患者さんの自宅を訪ねて医師との仲立ちをする訪問看護は、医療の論理が最優先の病院と異なり、「患者さんそれぞれの価値観を大切にする支援」を目指しているという。例えば、医療者が要求する投薬の量やペース。「病気や障がいで生活に不便を抱えている患者さんに、それが可能なものかを見つめ直し、それぞれの価値観、生活を優先した方法を一緒に考えます」と、鎌田さんは話す。

患者さんの生活を中心とした医療の提供、そのためには看護師と患者さんとの信頼関係を築くことが欠かせない。鎌田さんは「看護師それぞれに患者さんへの思いがあります。なかなか面と向かって話す機会はないけれど、この番組でそんな思いを発信することで、聞いている患者さんに伝わるかもしれない。ラジオという媒体が、お互いを理解するきっかけになれば、という期待もあります」と話す。

テレビと違い、耳だけで聞けるラジオは、語り手にも聞き手にも、身体の負担が少なく、病院や看護との相性も良いという鎌田さん。「ラジオはまだまだ広がる可能性がある媒体だと思います」。

「鎌田さんの番組には、病院のベッドで数年前のアーカイブを聴いたという方のお便りも来ます。リスナーへの影響力を感じますね」と話す、藤本さん。規模は小さくても、コミュニティラジオは、語り手と聞き手の間に確かなつながりをつくっている。

(2022年4月1日発行 ハンケイ5m vol.3掲載)

京都三条ラジオカフェ
住所:京都市中京区寺町三条下ル永楽町224 とーべぇビル303
TEL: 0752536900
FAX: 0752536901
受付時間: 月〜金曜日 10:00〜18:00(祝祭日・年末年始は休み)
京都三条ラジオカフェHP(外部サイト)☞https://radiocafe.jp/
E-mail: info@radiocafe.jp


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