ハンケイ5m

「障がいがあるからこそ、できる仕事を生み出したい」

障がい者アートの価値を、社会参加へつなげていくアンテナショップが誕生。障がい者就労の可能性を広げる、京都発の新たな挑戦。
株式会社タビノネ代表取締役 北辺佑智さん、株式会社アドナース代表取締役 鎌田智広さん

障がいがあるアーティストの魅力を、個性豊かなプロダクトを通して京都から世界に発信しようと、2022年1月、京都市の中心部にある、からすま京都ホテル1階にアンテナショップがオープンした。

「障がいがあるからこそ、できる仕事を生み出したい」。その思いから、就労支援施設を運営する株式会社タビノネの北辺佑智さんと、訪問看護事業を手がける株式会社アドナースの鎌田智広さんが共同で運営を担う。

まだまだ課題が多い障がい者就労の現状を、京都から変えて行くために。持続可能な障がい者福祉の実現に向けて新たなチャレンジを始める2人に、アンテナショップ開設に込める思いを聞いた。

■使う人の目線で追求した「使いやすさ」

−−障がいがあるアーティストの魅力的なプロダクトを集めたショップが、京都の街の中心である四条烏丸に開店するインパクトは大きいです。まずは北辺さん、障がい者福祉との関わりについて教えてください。

北辺:僕はもともと、世界各地の生産農家から直接仕入れたコーヒー豆を焙煎して販売する「珈琲焙煎所 旅の音」を起業し、現在はカフェ4店舗を経営しています。2年ほど前に「カフェが好きなので、ここで働きたい」という知的障がいの方が、アルバイトの面接に来られました。

当時はまだ事業を法人化する前で従業員の数も限られていて、結局、カフェでの採用には至らなかった。その後、ずっと心に残っていたんです。「あの人は、いったいどこで働くのだろう」と。それがきっかけで、障がいがある人の就労や社会に出て働くことに関心を持つようになりました。

北辺さんが運営する就労支援施設B型事業所「UTAU」では障がいをもつアーティストを対象に、プロのイラストレーターや作家さんのワークショップを定期的に開催。福祉業界の商品力向上にも積極的に取り組んでいる。
■障がいという壁を超える、アートの可能性

−−障がいがある人の就労支援を行う施設は2種類に区分され、それぞれ雇用形態や賃金が異なっていますが、いずれも、自立した生活を送るための収入には程遠いのが現状です。一般企業での雇用も広がってきていますが、障がいの程度による事業内容とのマッチングなど、解決に取り組まなければならない課題もあります。

北辺:ちょうどその頃に、長崎県の佐世保市でアートに特化した就労支援施設があることを知りました。そこは、障がいがあるからこそ生まれる個性を、デザインや表現に取り入れ、ハイセンスな商品を作っています。「障がいがあってもできる仕事」ではなく、「この人だから、任せたい仕事」を生み出していた。その転換に衝撃を受けました。

カフェ事業だとある程度の業務内容が固まってしまいますが、個性によってできるものが違うデザイン分野は面白いし、可能性が大きい。「これだ」と思い、京都で就労継続支援のため「UTAU」を開設しました。プロのイラストレーターやテキスタイル・デザイナーなど外部講師も招いて、障がいのある通所者の方と仕事に励んでいます。

やりがいだけではなく、賃金の面でも還元できる仕組み作りにも取り組んでいきたい。その一歩として、今回、アドナースの鎌田さんとご縁を頂き、一緒にアンテナショップを開設することになりました。

■社会の輪の中に「働く」場所を

−−障がいのある人の在宅介護や看護を手掛けている鎌田さんは、どのような思いを託してアンテナショップに参画することになったのですか?

鎌田:僕は元々、病院勤務の看護師として医療の世界で働いていました。病院に来られる障がい者の方も、病気が治って退院すれば、自宅での普通の暮らしに戻っていく。でも、その健康な障がい者たちが活躍できる場所、働ける仕事は限られていて、チャンスは非常に少ないのが現実です。障がい者支援という事業を通して、障がいがある人たちが社会に出ていくためのきっかけを作りたいという思いがありました。

本誌「ハンケイ5m」の発行がきっかけとなり、今回のプロジェクトに参加した鎌田さん。フリーマガジンによる情報発信だけでなく、障がいを持つ人とそうでない人が交わるリアルな場としてのアンテナショップに希望を感じている。

−−なるほど。「『この人だから、任せたい仕事』を生み出す」という北辺さんのお話とも共通する理念ですね。

鎌田:特に重度の障がいがある人たちは、高校卒業後に、社会に出るための居場所や仕事が用意されていないように感じています。仕事って、社会と自分をつなぐとても大事な要素だと思うんです。

子どもが将来、社会の中で仕事を得て、安定した生活を送ってほしいと願う親の気持ちは、障がいの有無に関係ありません。その意味でも、ものを作る工程のひとつの部分に障がいがある人が関わり、あえてひと手間かけることで新しい価値を生み出せたならば、社会の輪の中に「働く」場所が作り出せる。アートには、そういう希望があると考えています。

■消費が価値を生む、新しい挑戦

−−アンテナショップでは「UTAU」のプロダクトをはじめ、北辺さんが全国の支援施設からセレクトされた雑貨や菓子など、障がいがあるアーティストのさまざまな感性が光る商品が集まっていますね。

北辺:四条烏丸のアンテナショップは、「買ってあげる」のではなく「生活の中に取り入れたい」と顧客が欲し、プロダクトの購入を通して、作り手の思いを心地よく感じ取れるような空間にしていきたいと思っています。

先ほど鎌田さんがお話になっていたように、障がいがあっても社会の中で安定した生活、自立した生活を送るという選択肢を持てるようにするために、持続的な循環を作り出す必要があります。

購入する消費者が増えれば、その分、作り手である障がいがある人に還元することができる。障がいがあるアーティストの商品が流通するマーケットを生み出すことも、僕の責任だと考えています。京都から全国へと、循環を広げて行きたいです。

鎌田:「障がいがある人のアート」を単なる「流行りもの」として終わらせたくない。障がいがある彼ら彼女ら自身が、自分たちの人生の可能性をアートによって広げていく。そのことが、安定して自立した生活につながっていくという、地に足の着いた取り組みにしていきたい。

今回のアンテナショップの取り組みは、そういう新しい価値を作っていくチャレンジだと思っています。商品の購入という形で、より多くの消費者の方々も一緒にチャレンジに参加してもらうために、これから、どんどん情報発信していきたいですね。
(2021年12月20日発行 ハンケイ5m vol.2掲載)

障がいを持つアーティストたちのアンテナショップ
Things Market UTAU & ハンケイ5mショップ

住所:京都府京都市下京区烏丸通り四条下ル からすま京都ホテル1階(地下鉄烏丸線「四条駅」6番出口すぐ)


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▽ハンケイ5m公式インスタグラム⇨https://www.instagram.com/hankei5m_official/


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