祇園祭を支える人々の想い

〈祇園祭2022〉疫病退散の祈りつないで、祇園祭が告げる「始まりの夏」 3年ぶりの「神輿渡御」と「山鉾巡行」

疫病退散を神に祈る祇園祭。今年は3年ぶりに、八坂神社の神輿渡御と、町衆による山鉾巡行が行われます。その裏には、新型コロナ禍にあっても懸命に祈りをつないできた、祇園祭を支える人々の変わらぬ思いがありました。京都の夏が、いよいよ始まります。

八坂神社の本殿前は、参拝の列が出来ていた。修学旅行生だろうか、少年少女たちの白い半袖シャツが眩しい。順番が来ると賽銭を投げ入れ、皆で揃って、賑やかに柏手(かしわで)を響かせている。当たり前と思っていた日常が、少しずつ戻ってくる。そのありがたさを思い、そっと手を合わせる。

八坂神社の祭礼として、1150年以上の歴史を重ねてきた祇園祭。869(貞観11)年、日本各地に流行した疫病を鎮めるため、当時の国の数にちなんで66本の矛を立てて神泉苑に神輿を送った「祇園御霊会(ごりょうえ)」が始まりという。
それゆえ、中御座、東御座、西御座の3基の神輿に八坂神社の御神霊を遷し、担ぎ手である輿丁(よちょう)によって神輿を運ぶ「神輿渡御(とぎょ)」は、祇園祭のルーツに連なる最も重要な神事といえる。新型コロナ禍に見舞われた昨年、一昨年は神輿渡御に代わり、榊の「神籬(ひもろぎ)」を依代として白馬の背に乗せ、四条御旅所へ御神霊を運んだ。未曾有の状況にあっても祇園祭の本義を守るため、形を変えて祈りをつないだ。

白馬の背に乗せられた「神籬」(2021年7月17日、写真撮影:京都新聞社)

そうして迎えた今年。7月17日の夕刻、前祭の山鉾巡行を終えて後に営まれる神幸祭で、3年ぶりに「神輿渡御」が行われる。通常の道順とは異なり、そのまま四条御旅所に向かう短い道のりだが、例年と同じく氏子である「宮本組」が御神宝を持って神輿を先導する。
新型コロナ禍による混乱の中でも、確かに守り伝えられた祇園祭が、京都の町にいつもの夏を呼び戻そうとしている。その静かな熱気が人々をつなぎ、祈りを広げると信じて。八坂神社の3基の神輿は今夏、再び鴨川を渡る。
(文・龍太郎)

(2022年7月10日発行 ハンケイ500m vol.68掲載)

写真提供:宮本組

【祇園祭】還幸祭「神輿渡御」(2022年7月24日)

<

【祇園祭】神幸祭「神輿渡御」(2022年7月17日)

八坂神社権禰宜(ごんねぎ) 東條貴史さん
新型コロナ禍によって変えざるを得なかった祇園祭の在り方を、少しづつ本来の形へ戻していく始まりの年です。担ぎ手である神輿会の並々ならぬ思いを支えとして再開する神輿渡御が、その第一歩です。ぜひ多くの方に四条御旅所をお参りいただき、疫病退散を祈る祇園祭の本義に思いを致してもらえればと願っています。

三社神輿会(さんしゃしんよかい) 代表 近藤浩史さん
神輿を出せない悔しさを我慢して、3年ぶりの神輿渡御を迎えました。ですが、全てが通常通りということではありません。参加する輿丁の人数制限をはじめ、コロナ対策を徹底しなければなりません。3基の神輿を担ぐ三若、四若、錦の神輿会の力を合わせて、しっかりと安全な神輿渡御を行いたいと思います。

宮本組 組頭 原悟さん
神輿渡御がなかったこの2年間の祇園祭では、神輿が入れない細い道にも神籬を運び、氏子地域の隅々を巡りました。その中で「祈り」の大切さを改めて実感しました。当たり前のように続けていくことが、実は最も難しい。祇園祭の長い歴史を絶やすことがないよう、氏子として神事にご奉仕する、変わらぬ思いをつないでいきます。

 


<わたしたちは祇園祭を応援しています>