<出会う>京都のひと

「好きなことのための努力はできるけれど、目的なく我慢することはできない」

日曜限定オープンのプライベートなコーヒー焙煎店。
4ADJ1 店主 足立淳一

■新たなビジネスモデルの試金石として

日曜の正午から夕方4時まで。週1日4時間だけ営業するコーヒー焙煎店。ショップを兼ねた小さな工房で、店主の足立淳一さんが黙々と焙煎を行う。
「家で淹れたりはしていたけど、いわゆるコーヒー好きというわけでもなく」。
焙煎店を開く理由はコーヒー好きが高じてというのが一般的だが、足立さんはちょっと事情が違うようだ。人目を避けるような場所。また日曜のみという営業日からも推測できるとおり、足立さんの本業は別にある。

豆の種類が約40種と多いため、店では注文を受けてから生豆をハンドピックし、その場で焙煎。焙煎技術がプログラミングされた最先端の焙煎機で好みの味に仕上げてくれる。

■自分のためのプライベートな工房

最先端のコーヒーロースターを製造している知り合いの会社で振る舞われたコーヒーが、足立さんが焙煎を始めようと思ったきっかけだった。
「とにかくおいしかった! 今まで飲んでいたコーヒーはなんだったんだろう。そう思うほど、次元が違う味がしました」。
この焙煎機を使ってみたい。早速、西宮にコーヒースタンドをオープンし、丸3年営業したが、人員の都合などで閉店してしまう。次は自分がひとりでプライベートな工房をやろうと思った。屋号の「4ADJ1」の4は英語に置き換えると「for」。続く「ADJI」は名前の頭文字で、つまりは「足立淳一のためのコーヒー」という意味。自分用を焙煎するついでに販売も、とひっそり始めたのがこの店だった。
本業ではないのに、続けたのには理由があった。自身の性格を分析すると「まずは実験してみたい性質」。小規模でできるコーヒー焙煎店は新しい時代のビジネスモデルになるかもしれない。そんな予感からのひとり起業だった。

豆は200g1,200円~。公式オンラインストアでも購入できる。

■我慢のない働き方を提案したい

「自由もなく、かといってこの不景気で収入が上がるわけでもない不幸な世代」と自称する足立さんは現在、47歳。いわゆる団塊の世代ジュニアだ。飄飄とした雰囲気を漂わせる足立さんだが、東京に住み、スーツは戦闘服だと思っていた時期もあった。しかし40歳を機にスーツをやめ、革靴も脱ぎ、あらゆるこだわりも一緒に手放した。
「コーヒー焙煎でもなんでも。好きなことをする努力はできるけれど、目的なく我慢はできない性質なんです」。
好きなことで適度に稼げるビジネスを目指して。目下、身をもって実験中の脱力系コーヒー焙煎店は、かつて東京で働いていた自分と同じような境遇の人への「これまでとは違う生き方の提案」でもある。オープンから3年が経ち、徐々にではあるが手応えも感じている。
足立さんは「コーヒーの知識はプロにはかなわない、趣味が高じたレベル」と謙遜するが、実際は売り物への努力を惜しまない人だ。仕入れ先を知るために東ティモールの農園を訪ねたこともある。
さて、気になるコーヒーの味、これは家に帰ってからのお楽しみとしておこう。

(2021年1月10日発行 ハンケイ500m vol.59掲載)

視察で訪れた東ティモールの農園で足立さんが撮影した1枚。理由はシンプル。「栽培の現場を見たことがなかったから行きました」。

4ADJ1

京都市上京区室町通上立売上ル室町頭町289-3 1F
▽公式オンラインストア:https://4adj1.shop/
▽営業時間:12時~16時
▽定休:月〜土

最寄りバス停は「烏丸今出川」