<出会う>京都のひと

「自分のなかの、ヒッピーめいた部分は大事にしている」

京都のニューヨークチーズケーキ専門店の先駆者。
パパジョンズ オーナー ローシェ・チャールズ

■今から振り返ると人生はスムース

レンガ造りの同志社大学今出川キャンパスの北側、大きなロゴの赤い看板が目印だ。ニューヨークスタイルのカフェ「パパジョンズ」のオーナーはローシェ・チャールズさん、72歳。最初に日本の地を踏んでから、実に半世紀が経った。

ビビッドな赤が目を引く。店のデザインは自分で決めた。「パパジョンズ」の看板の屋号は父の名前で、肖像写真は祖父だ。「近くにいられないからこそ、ルーツを大事にしたい」。ニューヨークの居心地のよさが京都で融和した、独自スタイルに満足している。

■舞い戻った日本でカフェをオープン

チャールズさんはニューヨーク・ブロンクスのイタリア系大家族に生まれた。味覚を鍛えてくれたのはラザーニャにパスタ、料理上手な叔母だ。21歳のときヒッチハイクで世界の旅へ。「スペインに行く寄り道」でインド、日本へ。2か月滞在するつもりが2年に延びた。
「当時、海外の人間は日本で少なかったから、まるで珍しい動物のように私をみんなが見に来ました。そういうことが面倒で日本を去ろうと思ったのに、船に乗って7時間経ったら日本が恋しくなっている自分がいたのです」。

若き日のチャールズさん。

2度目の訪日は1978年、30歳のときだ。澤口美枝子さんと結婚し、子どもにも恵まれた。「ゆりかごを自分で作れたらいいのに」と思い立ち、木工と漆を学びたくて京都に移り住んだ。
人が集まり会話が生まれる場所をつくろうと、1985年船岡山にカフェ「Knuckles(ナックルズ)」をオープン。看板商品はサンドウィッチとニューヨークチーズケーキ。発展させて1990年、人気メニューのチーズケーキを専門にしたパパジョンズをこの地に開店した。以来30年、ほかに六角、修学院、北山の4店舗を展開。ビジネスは成功した。

クリーミーで濃厚。看板商品が、ニューヨークチーズケーキだ。

■京都の商習慣になじんで迎えた30周年

50年も日本にいたら、自分の国籍もなんだかわかんなくなっちゃうよ、と冗談めかすチャールズさん。
「でも、自分のなかの、ヒッピーめいた部分は大事にしている」。
一方で経営の話になると、チャールズさんはすっと表情が切り替わる。チーズを仕入れる業者も代替わりして親子2代目になった、常連さんがいるからケーキの値段はそんなに高くはつけられない。店舗の話題づくりも考えないと……。
「障害がたくさんあって予想通りに進まない人生だったけれど、それを乗り越えることが楽しかった。今から振り返るとスムースだったようにも思う」。
最近うれしかったことは、かつての「Knuckles」でアルバイトをしていた青年から、同じ屋号で店を開きたいと連絡があったことだ。しかも同店の名物だったナックルサンドウィッチのレシピを再現するつもり、とも聞いた。
チャールズさんの話で気づいた。それはいわゆる「暖簾(のれん)分け」ではないか? 代々続く仕入れに、高くできない値付け。京都の商習慣そのものだ。京都で軽々しくは使えない「老舗」の形容詞が、パパジョンズにはふさわしい。寄り道を愛するヒッピーの魂が、30年かけて京都でニューヨークチーズケーキの根を張った。

(2021年1月10日発行 ハンケイ500m vol.59掲載)

パパジョンズ今出川本店

京都市上京区烏丸上立売東入ル相国寺門前町642-4
▽TEL:0754152655
▽営業時間:11時~19時
▽定休:火(祝日の場合は翌日が休)

最寄りバス停は「烏丸今出川」