<出会う>京都のひと

「アジアンレストランに改名したことで好きな料理が作れるようになった」

中華料理とタイ料理が評判のレストラン。
アジアンレストラン 芙蓉園 店主 加地賢治

■やっぱり、料理の仕事が好き

「芙蓉園」といえば、京都で創始した広東料理店の老舗の系譜にあたる。最近は京都中華と呼ばれるようになったジャンルで派手さはないが、年齢を問わず卓を囲める端正かつ穏やかな味わいは、京都人にはおなじみだろう。
加地賢治さんの生家は四条河原町下ルにあるその本店。2人兄弟で、加地さんは兄にあたる。

海老すり身巻き揚げ1,100円は、春巻きの皮で包んだプリプリのエビのすり身を香ばしく揚げた人気の品。スイートチリソースで。

■東京から戻り、独立して別館を構える

いつも生活のそばには中華料理があった。東京の大学に進学し、就職先に選んだのも中華料理店。実家とジャンルの違う、高級レストランの事務職だった。
「実家とは違う味が知りたかった。配属先の大阪では調理担当の同僚らと、休みの度に食べ歩きをしていましたね」。
京都では出会えなかったさまざまな料理に触れ、世界が広がった。
「やっぱり、中華料理の仕事が好きだなと思いました」。
27歳で京都に戻り、店に入った。厨房には父以外に高校卒業時から店を手伝う弟がおり、親子3人体制。手先が器用な弟は、仕事も早い。「父の芙蓉園の跡を継ぐのは弟の方がいいだろう」、そう思った矢先、烏丸今出川にある空き店舗を「使わないか?」という話が舞い込んできた。
1993年、この店を「芙蓉園 別館」と名付けて、加地さんは独立した。36歳のときだ。

むっちりとした皮と野菜たっぷりのあん。軽やかな食べ心地でいくらでも食べられそうな焼き餃子1,000円。熱烈なファンがいるというのも納得の味わいだ。八宝菜800円。料理はテイクアウト可。

■父への反発と結婚。自分の味を追求

こんな裏話がある。「芙蓉園 別館」オープン前に加地さんは父と喧嘩をし、9ヶ月ほど家出をしたのだ。「広東料理にはない餃子は絶対に作らない」など、料理に対しては厳格な父に、新しい提案をしても端から突っぱねられる。自分の個性が出せない不満から、家を飛び出した。向かった先は東京だった。
「紹介された店が偶然、四川料理の店で。四川の技術を身に付けました」。
帰京後、別館では実家にはない餃子や四川料理に挑戦。本店の味を守る一方、自分の味をひたすらに追求した。
それから3年後の39歳で結婚。お相手は旅行先で出会ったタイ人女性。これは別の言葉に言い換えると、中華料理とタイ料理の出会いでもあった。そうして生まれたのが別館改め「アジアンレストラン 芙蓉園」。当時、名称の変更は現地のシェフを雇う上でやむなくだったそうだが、「アジアンレストランに改名したことで、好きな料理が作れるようになった」と加地さんは振り返る。
中国とタイ、2つの国の料理が並ぶメニュー。「二国で素材が似ている料理もあります。他店にあまりないメニューが多いですね」と加地さん。共通するのは丁寧な仕事ぶりと上品な味わい。かつては父に反発したが、京都中華の世界観も見てとれる。変化の中にも、名店の精神は途切れることなく息づいているのだ。

(2021年1月10日発行 ハンケイ500m vol.59掲載)

アジアンレストランへ名称変更と同時に1階もリニューアル。2階は宴会場に。

アジアンレストラン 芙蓉園

京都市上京区今出川通烏丸西入ル今出川町324
▽TEL:0754313665
▽営業時間:11時~13時30分L.O.、17時~20時半L.O( ※土曜・日曜は夜営業のみ)
▽定休:月

最寄りバス停は「烏丸今出川」