
「歳を重ねると、選択肢が絞られる。いい意味で、迷うことがなくなってきました」
明治43年創業の昆布の老舗。
おこぶ 北淸 4代目 北澤雅彦、北澤八重子
■ルーツと自分が一致した
「以前、納屋町にあった昆布の店は販売店舗でした。今この南新地はかつての作業場、僕の生家なんです。22歳までここにいて、小さい頃は親戚も一緒に住んでいたから、それはもう大家族でしたね」。
中書島の目抜き通りにある、昆布の老舗。かつて伏見には北前船で運ばれてきた荷を卸す港があり、そばの納屋町は洛南の錦市場と呼ばれていたそうだ。市場には問屋が立ち並び、昆布を専門に扱う「おこぶ北淸(きたせ)」もそのうちの一軒だった。

■歴史を知ることでルーツが好きになる
4代目当主にあたる北澤雅彦さんは、幼少期から後継ぎとして育てられてきた。
「うちはとろろ昆布を販売しているんですけど、削る作業を20歳の頃から手伝っていて。でも、内心は嫌や、かっこ悪い。そう思ってましたね」。
時は、バブル前の華やかな時代だ。北澤さんは高校卒業後は、周りから決められた人生に反抗するように大阪のデザイン専門学校に進学した。家とは距離を置くようになり、28歳で専門学校で知り合った八重子さんと結婚。それからはアメリカから輸入した服を扱うショップを富小路六角で立ち上げ、webデザインを学びなおした。家とは関わらず、ひたすらに自分の人生を歩んできた。しかし47歳の頃、北澤さんに転機が訪れる。
「家を手伝っていた弟が病気になったんです。自分は勘当状態だったんですけど、父親から帰ってこんか? と言われて」。
一度は家を出た身。最初は、渋々だった。そんな折、地域のホームページの制作の依頼が北澤さんのもとに。デザインの仕事は、その対象を深く知ることが何よりも大切だ。生まれ育った町の歴史を調べる作業はすなわち、自分のルーツを掘り下げる作業でもあった。
伏見の昆布屋に生まれた自分。中書島の歴史を知り、学ぶことを通じて、それが自分自身の「芯」を形成していることに気付かされた。

■昆布の魅力を伏見から世界に発信
「若い時はあれもこれもだったけど、歳を重ねると絞られてくる。いい意味で、迷うことがなくなってきました」。
昆布を知ることは、デザインの仕事を見直すきっかけになった。また、伏見の魅力を発信する仕事に携わることで、世界も広がった。前後して納屋町の店を畳むことになり、原点である中書島に戻ることを決めた。
2016年に最愛の妻八重子さんと始めたショップは「だしの取り方をお客さんに教えつつ、食べてもらう場所」。昆布料理と日本酒はもちろん、若手アーティストを招いたイベントを不定期で行う情報発信地としての役割も担っている。
最後、老舗らしからぬネオン管のサインが気になり、理由を尋ねてみた。すると、「この辺りはネオン街だから」と笑う北澤さん。ルーツと自分が一致した今、その表情はとても軽やかだ。
(2020年11月10日発行 ハンケイ500m vol.58掲載)

おこぶ 北淸
▽京都市伏見区南新地4-52
▽TEL:0756014528
▽営業時間:18時~22時(土日祝12時~)
▽定休:月(祝日の場合は営業、翌日休)
最寄りバス停は「中書島」

