<出会う>京都のひと

「お金がないって、すごい力になる。なんでも自分で作りました」

地域に密着するベーグル専門店。
ナナホシテントウ 店主 松下晴美

■好きなものに囲まれていたい

艶のあるパン生地。やわらかく、歯切れの良い食感だ。噛み締めると酒粕の甘い香りがふわり、広がった。
店名はベーグルのかたちに由来する「ナナホシテントウ」、住宅街にある小さな小さなベーグル専門店だ。

ベーグルの種類は全部で50種ほど。左下から時計まわりに酒粕、シナモンロール&くるみ、小豆あんクリームチーズ、クランベリー、紫芋あん。

■旅で出会ったベーグルを再現

松下晴美さんは伏見桃山の出身。ものづくりが大好きで、高校卒業後は神戸の短大で平面デザインを学んだほど。そんなわけで、口癖は「これ、作れるやん」。特に料理においては、旅先で出会ったいろいろな料理を再現してきた。
ベーグルに出会ったのは20歳のとき、アメリカ旅行でのことだった。
「友達が一度食べてみてと勧めてくれたんです。レーズン入りベーグルでした」。
食べた次の瞬間、「おいしい!」と衝撃が走った。滞在中に無我夢中で食べ続け、舌に味を記憶させた。
「当時はまだベーグルが珍しかったのもあって、作ると喜んでもらえました。形もコロンとしていてかわいいですしね」。
ずっとデザインの仕事をしていたが、30代後半で興味のあった地元のカフェで働くように。本当はベーグルを出すカフェをしたいと思っていたそうだが、予算の関係で断念。そんな時にお客さんの紹介で出会ったのが、この物件だった。厨房のテーブルを置けば、あとはショーケースを置いたらいっぱいの極小店。「スタート地点はここにしよう」。そう、決めた。
「お金がないって、すごい力になるんですよ。なんでも自分でやりました」
女手ひとりで、キッチンの改造から壁塗りまで。看板も自作したと笑う。

しっとりとした酒粕。伏見の酒粕の食べ比べをしたなかで、「フルーティーな味わいで、一番、好みだった」のが「京姫酒造」のものだったそう。

■「好き」を重ねたものづくり

「自分が食べて気持ちいいものを作りたいから」、北海道のハルユタカ、そして天然酵母。水は藤森神社で汲んだご神水を使う。
日本酒で知られる伏見だが、酒と同様、パンづくりにも良質の水は不可欠だ。水に恵まれたこの土地は、パンづくりにも適した町なのかもしれない。
松下さんのベーグルの味は多彩だ。なかでもユニークなのが、酒粕。「お酒の香りが大好きなんです」と微笑む松下さんは大の酒粕好き。伏見「京姫酒造」の酒粕に惚れ込み、なんと自ら蔵で働かせてもらったことも。オープン前の1年間と短い期間だったが、ご縁は今も続いて、ベーグルに使う酒粕を特別に分けてもらっている関係だ。
「『商品』というより、『好きなもの』だけを作っているのかも」。
京都の地元の食材も大好きだ。「城陽の農家さんから、いちじくがあるよと聞いたときは、手に入るだけいただいて、たくさん仕込みました」、松下さんは、目をキラキラさせる子どものよう。
「好きなものに囲まれていたい」と、屈託ない笑顔がいい。大好きな香りに包まれながら、今日も、ベーグルを作る。

(2020年11月10日発行 ハンケイ500m vol.58掲載)

てんとう虫同様、愛らしいサイズの店舗。店内はなく小窓から接客する。10月でオープンから2周年を迎えた。

ナナホシテントウ

京都市伏見区弾正町103-1
▽TEL:08061198643
▽営業時間:11時~15時
▽定休:月・土日祝(不定休あり。詳しくはIsntagram参照https://www.instagram.com/nanahoshi.1010/
▽営業時間:11時~15時(売り切れ次第終了)

最寄りバス停は「中書島」