<出会う>京都のひと

「カレー屋をやっているというよりは、バンドをやっている感じ」

独自路線でファンを増やすスパイスカレー屋。

ムジャラ オーナー 佐藤 圭介

■カレーは「音」の集合体

店名のムジャラとは、敬愛する同郷の漫画家、水木しげる氏の画集のタイトルを拝借したもの。生まれて18歳まで鳥取で過ごし、関西へ。京都でカレー屋をオープンした理由を聞くと、「なし崩し的に」と鍋をかき混ぜながらおどける佐藤圭介さん。が、そんな姿勢とは裏腹に、店の前にはスパイスカレーを求めて客が列を成す。数量限定ゆえ、夕方を待たずに店が閉まることも少なくない。

「似たスタイルのスパイスカレーが流行ってると知ったのは、オープンのちょっと前。奥さん以外、当時、俺がカレー作ってるなんて誰も知らんかったね」。

数種のカレーや煮込みをワンプレートに盛り合わせた、まぜまぜ系のスパイスカレーがついに京都にも上陸! という触れ込みでムジャラが話題になったのが3年前。ブームに乗った計算尽くしの開店と思いきや、真実は違うようだ。どうやらただのカレー屋ではない。後に気づくのだが、これはまだ序の口であった。

本日のカレーは全3種で、取材当日はブタバラカレー、チキンカレー、豆カレーが登場。添えられた野菜のおかずとカレー、全体を混ぜ合わせることで味がどんどん変化する。1種は1,050 円、写真の3 種は1,400 円。

■音楽に例えるならサイケデリック

高校を卒業し、イラストレーターを夢見て大阪の専門学校へ。絵を描きながら、平行してノイズ系のバンドを10年ほど続けていた佐藤さん。スパイスカレーの調理法は一人暮らしをするなかで独学で身に付けた。

「影響を受けた店はほんまにないです。ヱスビーの赤缶からスタートして、いろんなスパイスを入れた。音楽に例えるならサイケデリック。店もカレー屋というよりは、バンドをやっている感じです。そこには美学がある。でもメジャー志向じゃない分、自由だけど制約はある」。

なんと、佐藤さんにとって、カレーは音楽と限りなく近い位置にあったのだ。なんとも個性的なとらえ方ではないか。

青とピンクがテーマカラーの店内。「好きなものは小さな時からまったく変わらない」。テレビからは『ゲゲゲの鬼太郎』の映像が流れる。

■マルチエフェクターに頼らないストイックな「音」作り

バンド「ムジャラ」(バンドと言いながら一人だけど)にはカレーづくり鉄の掟がある。「ダシは使わない」「味付けはスパイスと塩のみ」、そして「その日の分は当日に作る」の3か条だ。

「音楽でいえば、マルチエフェクターは極力使わない。使うのは、テープエコー、ファズ、スプリングリバーヴの個性的な3種のみ。それだけで、おいしくなるに決まってますもん」。

佐藤さんにとってカレーとは、スパイスという音の集合体。即興ならではの偶然性を楽しむ食べ物だ。ここまで読むととっちらかった味を想像されるかもしれないが、さにあらず。ひとつひとつが主張しながらも見事に調和された味わいは、まさしく音楽だった。

「味もこれだと決めるのはまだ早い。いろいろ挑戦したほうが引き出しが増えるし、何年かした後にできあがるものだと。お客さん、それまで付き合ってね」。

どこまでも自分の感性に忠実。食べた後に清々しい気分になるのは、スパイスの効能だけじゃない。

(2019年1月10日発行ハンケイ500m掲載)

元スナックを改装した店内。カウンター以外にテーブルも。

ムジャラ

京都市下京区高辻通大宮西入ル坊門町832

▽TEL:08091611191

▽営業時間:11時半~売り切れ次第終了(金曜は18時から夜営業もあり)

▽定休:水、日