京都の文化を考える

2022年度、いよいよ文化庁が京都へやって来ます。

2022年度内に、文化庁が京都へやって来ます。そこで京都府文化政策室の担当者が、1689年から続く京都の老舗・聖護院八ッ橋総本店の専務取締役・鈴鹿可奈子さんに、京都の文化について伺いました。

左から京都府文化政策室・吉岡李英さん、聖護院八ッ橋総本店 専務取締役・鈴鹿可奈子さん、京都府文化政策室・小泉慶治さん

■「文化庁京都移転ロゴマーク」は文化庁の京都移転を盛り上げたい方なら誰でも使用可能

――文化庁の京都移転を多くの人に知っていただくために、京都府、京都市、京都商工会議所で構成される文化庁京都移転準備実行委員会では、文化庁京都移転ロゴマークを作成しました。応援していただける方なら誰でも無料でダウンロードができ、使用することができます。
▽文化庁京都移転HP⇨https://bunka-iten.kyoto(※外部リンク)

文化庁京都移転ロゴマーク。京都の文化財の象徴である五重塔を京都の紫色で表し、背面の赤い丸で日本および東京を表現され、文字により京都移転が伝わるよう単純明快に表現しています。

鈴鹿:ステキなロゴですね! 知ってもらうことはとても大事。これを見れば「文化庁が来るんだな」「文化ってそもそも何だろう」と、子どもたちをはじめ、皆が話題にできますね。ロゴを簡単にダウンロードで手に入れられるのもいいと思います。気軽にポスターやチラシに使用して広められる。文化は「知る」ことから始まるので、とても有効な告知だと思います。

――ありがとうございます。文化とは何か、という質問もよくいただきます。鈴鹿さんが考える文化はどのようなものですか?

鈴鹿:文化とは、ガラス越しに眺めるものでも過去の遺産でもなく、いまの暮らしの中に脈々と受け継がれ、大事にされてきたものだと思います。

鈴鹿可奈子さん

鈴鹿:たとえば「和菓子」。春を告げる「うぐいす餅」に「桜餅」、端午の節句の「柏餅」。そして京都人なら夏越の祓(6月30日)に「水無月」を食べないと、夏を迎えた気がしない。普段の生活に、習慣として織り込まれているからなんでしょうね。
「お祭り」もそうですね。京都の節分は神社に出かけて厄除けをし、新年(旧暦)を祝います。夏の祇園祭や地蔵盆、地域の寺社のお祭りなど、京都の人は節目ごとの行事を大切にしてきました。日々の暮らしの中にある、慣習や知識、技術として受け継いできたもの。これこそが京都の文化ではないでしょうか。

――なるほど。たしかに京都の「和菓子」は季節を知る「文化」でもありますね。

鈴鹿:はい。私たちは八ッ橋という日常のお菓子を製造していますが、「上生菓子」(じょうなまがし)は、まさに「文化」の表れだと思います。原材料は砂糖、米、小豆等とシンプルなのに、数えきれないほど多種多様なものが生み出されることに感心します。春には花を模したものが、夏には中身を透かして涼やかさを見せ、秋には樹々の彩り、冬には雪山を連想させる。ひとつひとつ丁寧に職人さんたちが作られますし、また、季節にふさわしい趣や和歌など古典にちなむ菓銘(かめい・菓子の名前)を持つのも想像力をかきたてられます。洗練された芸術作品、見て楽しみ、口に美味しいアートですね。

――上生菓子は京都で発祥し、全国に広まった歴史がありますね。

鈴鹿:茶の湯の確立とともに菓子が発達したからですね。
私もお茶に関係の深い家で育ちましたので、物心ついた時からお茶席に出入りしていました。大学に入り、お茶事にお招きいただいた際、まさに五感で楽しむ文化なのだと実感いたしました。季節のしつらえ、お茶席の光の変化、お湯の沸く風のような音、器の手ざわり。その日のテーマに沿ったお道具合わせはまるで謎解きのよう、会話で明かされていくのも面白いです。そんな中で、お菓子とともに美味しく点てられたお茶を楽しむ。視る、聴く、触れる、嗅ぐ、味わう、全てが響き合う様子は、さながらオーケストラのようだと思いました。小さな空間の一期一会のセッションに、いつも感動を覚えます。

――そういうお話を聞くと、茶の湯の世界は憧れますね。でも、少し敷居が高そうな気もします。

■文化は自由なもの。気軽に楽しんで

鈴鹿:大丈夫だと思います。京都ではお抹茶をいただける寺社やカフェ、お茶を体験できる催しもあります。家でお抹茶を飲みたくなれば、気軽に点てて好きなお菓子と合わせても良いですよね。案外洋菓子で合うものもあるでしょうし。器も自分の好きなもので良いのではないでしょうか。
また、お菓子の文化に興味があれば、上生菓子も日常の和菓子も、街にある数々のお店ですぐに手に入ります。それを好きな飲み物と合わせてみる。コーヒーや紅茶でも構わない、はじめはペットボトルかもしれない。そこから、美味しく合わせるには何が良いか、と興味が広がっていくのが楽しいと思います。

――そういうふうに、日常生活から気楽に「文化」を楽しめるといいですね。

鈴鹿:日常といえば、京都では着物姿の人もよく見かけます。他の街より身に着けるハードルは低いのではないでしょうか。結婚式やお茶席などお招きの席ではドレスコードがありますが、普段のお出かけなら、カジュアルにお好きなコーディネートでいいと思います。私も洋服用の髪飾りや鞄を合わせたり、友人と会うときには襟や足袋で遊んでみたりと、自由にファッションを楽しんでいます。
そもそも正式な場でのお茶や着物の決まり事は、皆が心地よくいられるためのルールだと思います。ルールがあるからそれさえ覚えていればビギナーさんでも恥をかくことがなく、不快な思いをする人が居ない。ルールによって皆が守られているように私は思います。疎外的と誤解されがちですが、京都人はフレンドリーで、文化に興味があるビギナーさんには実はとても世話焼きな面があります。わからないときは知ったかぶりせずまわりやお店の人にどんどん聞いてみると、きっと皆さん親切に教えてくれますよ。

――心強いです。京都は古いものを大事にする一方で、新しいものも積極的に取り入れる「文化」もありますね。

鈴鹿:はい。聖護院八ッ橋総本店も333年続く老舗ですが、2011年春に「nikiniki」というブランドを立ち上げました。八ッ橋といえばおみやげとして有名。でも普段の日常で食べるお菓子として、京都に住む人、若い世代の人にも親しんでもらえたら。そんな思いがあって、聖護院八ッ橋総本店で長年作り続けている八ッ橋・生八ッ橋の様々な食べ方のバリュエーションを提案するお店として立ち上げました。八ッ橋のイメージを一新したかったため、色や形を大幅にアレンジしています。ショーケースに並ぶお菓子に「これが生八ッ橋?」「可愛い」という感想をいただけて、こちらの思いが伝わっており嬉しいです。

――お店の外観も、お菓子も、とてもスタイリッシュですね。

鈴鹿:ありがとうございます。米粉と砂糖を練り合わせ、ニッキで風味をつける。創業当時からの八ッ橋の定義を守り、生八ッ橋に於いては少量生産のため、せいろ蒸しなど寧ろ昔ながらの製法で作られているものもあります。それがいでたちを変え、多くの世代に愛される。またこれをきっかけに、昔から守ってきたお菓子に焦点を当ててもらえることに喜びを感じます。歴史に支えられているからこそ、新しい挑戦ができました。また八ッ橋という長年のベースがあるからこそ皆さん興味をもって応援してくださる、これも京都の文化を支える、京都らしさなのかもしれません。

■文化を守るのは、子どもの頃からの「経験」

――お話をお聞きし、鈴鹿さんの生活や、貴社のお菓子作りの中にも、脈々と続いてきた「文化」を感じました。

鈴鹿:ありがとうございます。日常に着物やお茶、和菓子などの文化が根付いているのは、京都の良さですね。それは作り手や使い手の心に、「この習慣を続けたい」という気持ちがあるからだと思います。そうした日常の文化を、京都外からいらっしゃる方、また京都に住んでいても馴染みがなかったという方にこそ、まずは体験していただくのが一番だと思います。
京都の中にいると、当たり前すぎてよさがわからない面もあり、自覚していないこともあるかもしれません。たとえば吉田神社の社家である鈴鹿家では代々、社紋となる胡瓜をいただかない習慣があります。祇園祭の一か月間に携わる町の方々が胡瓜断ちをするのと同じ理由で、私たちの家では年中です。古くからのお料理屋さんでは「鈴鹿さんやものね」とお食事から除かれているのですが、よく考えれば異例のこと。けれども私の毎日の日常の中に染み込んでおり、娘もまた「きゅうりたべない」と口にするようになりました。こうしたことを外から興味を持ち、指摘されるのもまた、地域地域の密着度が低くなり様々な文化が混ざり合うようになった今だからこそ、続けていくきっかけになるかもしれません。
「続けていきたいと思うこと」が文化を守るには必要だと思います。そのためにまず、子どもたちには、地域の文化に幼いうちから接してほしいです。学校だけでなく、街中でたくさんの文化に触れ、継承の担い手となってくれればと思います。
文化庁さんが京都に移転されることで、有形だけでなくこうした無形の、生活に潜んでいる文化も再発見していただき、守り伝えることに繋がれば良いと思います。また、子どもたちが文化に触れ、当たり前のものとして守り伝えていく、そんな仕組みに繋がっていけばと期待しています。

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