<出会う>京都のひと

「厨房で、お客様のお皿がカチャカチャ鳴る音を聞いているのが好き」

オーガニック野菜が主役のフランス料理店。
レザン パティシエ 桑村啓太、シェフ 桑村一恵

■お互い、好きなものを作っている

「東山に向かう緩やかな勾配が神戸の町に似ていて、気に入りました」。
パティシエ兼サービスの桑村啓太さんとシェフの一恵さん。「レザン」は夫婦で営むフランス料理店だ。一見するとカフェのような雰囲気だが、クラシックなソースと共に供される皿は、どれもフランス料理の正統。現在の場所に移転して4年。閑静な住宅街、岡崎の住民の胃袋をがっちりと掴んでいる。

ディナーメニューより、いろいろな貝と野菜のバター煮込み1,700円と季節の野菜のポタージュ700円。フランス料理のスタンダードを揃える。ランチ1,100円~、ディナーコース2,800円~。

■阪神大震災を経て、整備士から料理人に

一恵さんは神戸出身。なんと、前職は車の整備士だったそうだ。阪神大震災の影響で務めていた会社が倒産。新人のパティシエだった夫の啓太さんとは、30歳手前の「人生模索中の時期」にバイト先の洋菓子店で出会った。
一恵さんが新たな仕事として選んだのは飲食業。当初はパン職人を目指したが、勤め先のフランス料理店ではフランス帰りのシェフの右腕として昼夜なくハードに働いた。これが、料理人としての第一歩だった。
一恵さんは修業時代をこう振り返る。「オーダーもすべてフランス語で、言っていることがわからない。フランス語を覚えるところからのスタートでした」。
同じころ、別の店でパティシエとして早朝から深夜までのハードワークに追われる啓太さんと交際がはじまり、その1年後には結婚。一恵さん30歳、啓太さん24歳の時だった。
結婚後、一恵さんはさらなる研鑽を求め、神戸の某フレンチレストランの門を叩いた。同じ頃、一方の啓太さんもレストランのデザートを経験するべく、別のフレンチレストランで活躍。片やフレンチシェフとして、片やパティシエとして。めいめい神戸での修行を経て、選んだ独立の地は啓太さんの故郷、京都だった。

「華やかなムースもいいけど、シンプルな焼き菓子が好き」と啓太さん。カルネなど、デザートは300円~。

■互いがプロフェッショナル リスペクトし合う仲

「フロアには基本、出ないですね。厨房でお皿がカチャカチャ鳴る音を聞いているのが好きなんです」。
そう話すのは一恵さん。2人で接客することはほぼない代わりに、ショーケースには持ち帰り用の惣菜と菓子が仲良く並んでいる。「方向性は特に合わせることはしないです。お互い、好きなものを作っている感じ」。「一恵さんは農家も見る。それだけあって、料理は野菜使いが上手ですね」と啓太さん。一恵さんは「啓太さんの焼き菓子は、優しい味やと思います」と互いを評する。それぞれがプロフェッショナル。多くは語らないが、言葉の端々から尊敬の念が伝わってくる。
数日後、ランチをいただいた。前菜盛り合わせに、一恵さんが「地味だけど自信作」と照れながら教えてくれた季節の野菜のポタージュ、そして啓太さんの焼き菓子で終わるセットだ。ふたりの人柄を映したような、実直で飾らない味わい。いつの時代も定番になる店とは、きっとこんな店のことなんだろうなと思った。

(2020年9月10日発行 ハンケイ500m vol.57掲載)

以前はコースのみのレストランだったが、移転後はリビングをイメージしたカジュアルな空間に。啓太さんの細やかなサービスも素晴らしく、おひとり様の姿も珍しくない。

レザン

京都市東山区中之町203 シルフ神宮道テナント2
▽TEL:0757463738
▽営業時間:11時半~14時L.O. 17時~20時L.O.(持ち帰り11時半~21時)
▽定休:月(火は不定休)
▽レザン 公式HP→http://www.delicafe-raisin.com/index.html

最寄りバス停は「南禅寺・疏水記念館・動物園東門前」