<出会う>京都のひと

「基準は、骨董とか現代ものではない。扱うのは、自分の琴線に触れる美しいもの」

南禅寺の門前にある、うつわ専門のセレクトショップ。
うつわや あ花音 オーナー 梶 裕子

■愛される作品は次代に残る

今でこそ、うつわのセレクトショップは珍しくない。しかし30年前の開店当時はバブル期、洋食器といえばジノリ、普通のOLが躊躇(ちゅうちょ)なく超が付く高額の古伊万里焼(いまりやき)を買うような時代。その頃から、あ花音(かね)の陳列棚には今と同様、ブランドか無名かにこだわらず、現代作家の作品が楚々と並べられていた。

7月に開催されたグループ展「あ花音劇場」。夏のおたよりをテーマにした作品が展示された。秋は食が題材の「よろしゅうおあがり」を開催する。展覧会の情報はホームページで随時告知される。(写真:岡森大輔)

■手にした表現の場。そして、作家との出会い

オーナーの梶裕子さんは新門前通に店を構える「梶古美術」に生まれた。
「長女なので、私が家を継ぐのだとずっと思っていました」。
家を継ぐ。梶さんにとって、家業以外、自分のしたいことができないという意味のように感じられた。
結局、古美術の家業は、夫が7代目として跡を継いだ。転機は第2子を身ごもったとき。老舗料理旅館の敷地で店をしないか、という話が舞い込んできたのだ。
父とも夫とも違う、私を表現する場になる。夫にも背中を押され、意を決した。
「開店は出産の3カ月前。あの時は大変すぎて、何も覚えていないです」。
話があった季節が、あかね色に染まる秋だったことから「あ花音」という屋号をつけた。うつわを通じて生活に「花」を添え、会話の「音」色を楽しんで欲しい。そんな意味を名に込めた。
開店当初は実家の古美術のつながりもあり、伊万里焼や清水焼(きよみずやき)のうつわを置いていた。今のように現代の作家の作品を扱うようになったのは、知り合いの作家からのアドバイスがきっかけだった。
「物故作家と現代の作り手の両方。新旧の作品を分けへだてなく並べたら、他にない展示になるんちゃうか」。
作家を紹介してもらい、盃を集めた展覧会「百趣百盃(ひゃくしゅひゃくはい)」を店内で開催。29年前、1991年のことだ。

巨匠から若手まで、盃を1点ずつ集めた展覧会「百趣百盃」。初回が行われた29年前はまだ、うつわの主な購入先はデパートでセット買いが主流の時期。前代未聞の展覧会だった。常設では40名ほどの作家の作品を扱う。

■未来に作品を残すため。これからも、作家とともに

現代作家とのやりとりは梶さんにとって新鮮で刺激的だ。「たとえば、梱包の仕方ひとつとっても作家によって違う。生きた『人』が作っているのだな、と感じましたね」。
企画展は2カ月に1回。グループ展は「あ花音劇場」という。これまで作家と共に歩み、成長してきた。今では若手作家の発掘からアレンジの相談まで。その活躍ぶりは、まさに劇場の監督のようだ。
たとえば「夏のおたより」というテーマを考えるのは梶さんだ。作家が作品づくりに悩むとき、彼らの持ち味を知る梶さんはそっとアイデアを出す。
梶さんの名刺の裏側にはあかね色のカリグラフィーで「Antiques for the future」と記されている。
「未来に向けて、アンティークになるようなもの。自分の琴線に触れる美しいものを扱いたい」。
この店に並ぶ作品が人々に愛され、未来に残ることを願って。南禅寺門前のうつわ屋は、今年の春、30周年を迎えた。

(2020年9月10日発行 ハンケイ500m vol.57掲載)

観光客が行き交う参道に、ひっそりと。

うつわや あ花音

京都市左京区南禅寺福地町83-1
▽TEL:0757524560
▽営業時間:10時半~17時半
▽定休:月
▽うつわや あ花音 公式HP→https://www.utsuwayaakane.com/

もよりバス停は「南禅寺・疏水記念館・動物園東門前」