
長年培った伝統技法での舞台衣裳制作と、斬新な染めものブランドの両輪で、染織の未来を拓く。
■山元宏泰さん
京都出身。2011年に母から山元染工場を継ぎ、現在4代目。主に、舞台衣裳を担当する。
■山元桂子さん
三重出身。京都芸術大学で染色テキスタイルを学ぶ。自身のブランド「ケイコロール」を立ち上げる。
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かつて日本映画の隆盛期、京都はその中心地だった。太秦周辺には撮影所が多く、時代劇衣裳の需要が高かった。1930年に染色業の本場・壬生で創業した山元染工場は、現在京都唯一の、舞台衣裳を専門に手がける会社だ。
「時代劇にとって衣裳は、人物を輝かせて役柄の設定を物語る重要な存在です。企画段階から関わり、提案、デザイン、染めから仕立てまで一貫して行います」と語るのは4代目の山元宏泰さん。工場には創業以来10万枚以上の型友禅の型紙があり、あらゆる伝統柄が揃う。黒沢明監督の映画をはじめ、物語の世界観を支えてきた。

しかし、近年、時代劇の需要は落ち込んでいる。「注文を待つだけでなく発信しよう」と妻桂子さんが2016年に立ち上げたのが、染めものブランド「ケイコロール」だ。美大出身の桂子さんは培ってきたアートの感覚で、伝統の型紙を生地の上にランダムに置いて色を重ねていく。鮮やかな色彩を生かした和風バッグや手ぬぐいなどのアイテムは若者や外国人といった国内外のファンを開拓した。
宏泰さんは「伝統の染物業から見たらルール違反だが、色もデザインもおもしろい」と絶賛。「伝統の型紙が人の目に触れることがうれしいし、閉鎖的な業界の突破口となった」と喜ぶ。

舞台衣裳制作とケイコロールは山元染工場の両輪となった。「ケイコロールの自由な表現に触発されて、舞台衣裳も得意先に積極的に提案する姿勢に変化しました」と宏泰さん。また桂子さんは2022年春から母校で教鞭を執る。伝統と創作と教育と。染織の未来を拓く挑戦がこの町工場から始まっている。
(2022年1月11日発行ハンケイ500m vol.65掲載)
<共同編集長コラム>
時代劇は京都ならではの独自の技が結晶した文化と言えます。大掛かりなセットから持ち道具の小物に至るまで。伝統文化の職人が携わって作り上げる時代劇は、それぞれの時代の雰囲気を再現するだけに止まりません。映像を通して時代の温度さえ伝わってくる存在感は、本物の伝統文化が息づいている京都だからこそなし得るものです。京都で撮られる時代劇の衣装を、90年を超えて支え続ける山元染工場の山元宏泰さんと桂子さん。伝統を守りつつ、新しい挑戦へ踏み出す2人の仕事から目が離せません。(龍太郎)
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私も挑戦者です
伝統技法での舞台衣裳制作と、新たな染織ブランドで染織の未来に挑戦する山元染工場と同様に、三洋化成は化学のちからで暮らしや産業を支えながら、よりよい未来の実現に向けて新分野に挑戦しています。
三洋化成工業株式会社

