
自主映画の祭典「ぴあフィルムフェスティバル」4年ぶりの京都開催
新人監督の登竜門として名高い映画祭「ぴあフィルムフェステイバル(PFF)」が1月8日〜16日まで、京都市中京区の京都文化博物館で開催される。京都でのPFF開催は4年ぶりで、関西初上陸や未配信作を含む23監督の計49作品を上映する。
総合ディレクターを務める荒木啓子さんに、映画祭の見どころや映画発祥の地である京都での開催にかける思いを聞いた。
−−PFFは今回が43回目の開催と大変長い歴史がありますが、自主制作の映画作品を集めた映画祭は珍しいですね。
荒木:PFFはそもそも、情報誌『ぴあ』の発行を手がけていた「ぴあ株式会社」が1977年に始めました。大学の映画研究会の出身者たちが集まって設立した「ぴあ」にとって、映画監督を志す人たちのために自主映画を集めた映画祭を開催することは、夢であり企業としてのアイデンティティの根幹でもあります。2017年には一般社団法人PFFによる運営に移行しました。社会全体で映画という文化を継承して、さらに日本から世界へと飛躍できるような環境づくりにも取り組んでいます。私は総合ディレクターに就任して約30年になりますが、PFFでしかできないことを追求し、映画祭という形で具現化することを続けています。

−−日本国内で多数の映画祭がありますが、自主映画を集めたPFFは上映作品のセレクトや、若手映画監督を支援する「スカラシップ制度」など独自色が強いですね。
荒木:もともと映画祭は1930年代、米ハリウッド映画の勃興に危機感を募らせた欧州で、芸術としての映画を確立しようと始まりました。欧州では地方の小さな市町村でも頻繁に映画祭が開催され、公共の文化として映画祭が根付いています。

ひるがえって日本は、「映画はビジネス」という長年に渡って社会の意識が強いことから、公共的な映画祭は非常に少ないですし、映画制作への公的な支援も十分とは言えません。
昨今のメディアの多様化による影響は映画も例外ではなく、決して明るい未来ではない。ヒット作といわれる映画でもDVDは何百枚単位でしか売れず、映画を作って収入を得ることが年々困難になってきています。だからこそ、映画業界が厳しい状況にある中でも情熱を持って映画を作っている若い人たちを勇気づけ、「大丈夫だよ」と伝えたいのです。PFFをきっかけとして、映画産業のあり方を変えたい、未来をともに作っていきたいという思いがあります。

−−今回のPFFは8日間の開催期間中、489作品から選ばれた「PFFアワード2021」の入選作品をはじめ、世界が注目しているタイの若手ナワポン・タムロンラタナリット監督の特集や、没後10年となる故・森田芳光監督の作品など、映画通から初心者まで楽しめる内容となっています。
荒木:「どういう基準で作品を選ぶんですか」と聞かれることが多いのですが、映画を何かの基準や点数で評価することには意味がないと考えています。
PFFアワードでは16人のセレクションメンバーが分担し、3人ずつで作品1本を見て、一次選考を行います。選考を通過した作品は全員で見て、最終選考では2日間かけて徹底的に議論します。それぞれの意見が出尽くしたところで、私の方で最終的な結論を出します。多数決を排除して、話し合いで決定するため途方もない時間と手間がかかります。でも、たくさんの作品を見ていると、自ずと浮かび上がってくる作品に出会うんです。

PFFは商業映画を扱っているわけじゃない。ヒットや観客動員を狙ったり、映画業界の即戦力を発掘しているのではありません。ある人間が「こういう映画を作りたい」という欲求や衝動に動かされて出来上がった作品の、その過程を考えることに意味がある。だから、たった一人のための映画だっていいわけです。PFFのような考え方の映画祭は、世界的に見ても珍しいと思います。

−−映画発祥の地である京都での開催は4年ぶりですが、これからの映画産業を担う若い人たちへの思いを聞かせてください。
荒木:私は10代から京都に度々遊びにきて、ライブに行ったり街を歩き回ったりしてきました。京都の街って、ロンドンに似ていると思います。古い建物が残っていて街の様子が昔と変わらず、それぞれが自分の好きなことを大切にして、アングラ的な部分と高貴な部分が入り混じっている。そこに、普遍的な京都という街の魅力を感じます。
映画という表現にも、普遍的な力があります。日本語の映画でも字幕や吹き替えをすれば、簡単に国境を越えることができる。自主映画は世界へと広がる可能性を秘めていると思います。

若い人たちには自分の置かれた場所に固執せず、好きな表現や作品のモノマネでもいいから、とにかく作ることを始めてほしいですね。白紙から何かを生み出している人なんてこの世にいません。オリジナリティは、モノマネからしか生まれてこない。Youtubeに上げるためでも、好きな作品を模倣した寄せ集めでもいいから、「自分には世界で通用する力があるんだ」と思って、まずは作ることを続けてほしい。
今はスマートフォンで撮影し、パソコンで編集して、データで作品を提出することがほとんどで、映画を作った本人でさえスクリーンで自分の作品を見る機会がありません。でも映画とは本来、日常を離れた大きなスクリーンに映して、見知らぬ人たちと同じ空間で見るもの。その体験こそが映画の本質なんです。

−−体験こそが映画の本質だ」というお話にとても共感します。私的でありながらスクリーンを通して他者と共有される自主映画という存在は、映画の本質に迫るものですね。
映画監督の仕事とは、端的に言えば、映画というものを最初から最後まで完璧にコントロールし、ディレクションすることに尽きます。大きなスクリーンでの上映に耐えうる情報量を画面に詰め込み、映像や音に徹底してこだわり、あらゆる細部を蔑(ないがし)ろにしない。そういう精神力があってこそ、物語としての映画が立ち現れてくる。それは、実際にスクリーンに映さなければ感じ得ないものです。

PFFで自主映画との出会いを通して、映画を作る立場、見る立場のどちらの人にも、そんな映画ならではの醍醐味を感じてほしい。誰かのお墨付きやコスパを求めて映画を見るのではなく、映画という体験そのものを楽しんでもらえればと思います。
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荒木啓子(あらき・けいこ)
1990年からPFFに関わり、92年にPFF初の総合ディレクターに就任。コンペティション「PFFアワード」を通じて若き映画人の輩出や育成を積極的に行うと同時に、招待作品部門では映画の過去と未来を伝える企画を実施。PFFアワードやPFFスカラシップ作品を海外映画祭へ積極的に出品し、日本の若い才能を世界に繋げ、日本映画の魅力を伝える活動を幅広く展開している。
「第43回ぴあフィルムフェスティバル in 京都」
日程:2022年1月8日(土)~16日(日) ※11日(火)休館
会場:京都文化博物館・フィルムシアター
料金:一般・シニア1300円、学生・障がい者・友の会800円
▽チケット購入方法
・チケットぴあにて発売中
【Pコード:551-866】
・インターネットで購入
⇨https://t.pia.jp/pia/search_all.do?kw=PFF
・セブンイレブンで直接購入
※会場でのチケット販売(当日券)はありません。事前に購入してご来場ください。
▽お問い合わせ
(〜1月7日まで)
一般社団法人PFF=0357745296
(1月8日〜16日)
直通ダイヤル=07045447569
▽公式ホームページ
⇨https://pff.jp/43rd/kyoto/
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sponsored by 第43回ぴあフィルムフェスティバルin京都

