ヤノベケンジの世界から語る現代アート

《ジャイアント・トらやん》の旅立ち

《ジャイアント・トらやん》

アルミニウム、鉄、真鍮、FRP、発泡スチロール
720×460×310cm
2005年


「子どもの命令にのみ従い、歌って踊り、火を噴く子どもの夢の最終兵器」というコンセプトで、2005年に現代美術家のヤノベケンジが制作した巨大な機械彫刻《ジャイアント・トらやん》。高さ7.2メートルという圧倒的なスケールは、見る者に「最終兵器」としての威圧感を与えつつも、どことなくユーモラスな雰囲気をたたえている。金属の装甲に覆われた巨大な体躯ながら「大阪のお笑い」にも通じるような親しみやすさは、大阪出身であるヤノベの父が趣味とするちょび髭の腹話術人形から生まれた《トらやん》が巨大化した、という作品の設定によるものかもしれない。

ヤノベはこれまで《ジャイアント・トらやん》を、大阪市住之江区北加賀屋にある鋼材加工工場・倉庫跡地を活用した大型現代アート作品の収蔵庫「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」で保管してきた。2012年の開館以来、MASKのシンボル的な存在として親しまれてきた《ジャイアント・トらやん》は、2022年2月に開館を予定している大阪中之島美術館へ寄贈される予定だ。そこで、11月12日〜14日までの3日間、MASKでの最後を飾るファイヤーパフォーマンスが企画された。

今回のファイヤーパフォーマンスは、MASKを運営する一般財団法人おおさか創造千島財団が企画した一般公開「Open Storage 2021 -拡張する収蔵庫-」のクロージングイベントとして開催されたもの。床面積約1,000㎡、天井までの高さ9mという広大な空間に《ジャイアント・トらやん》をはじめ、《サン・チャイルド》、《KOMAINU -Guardian Beasts-》、《タンキング・マシーン(リバース)》、《ラッキードラゴン》と、ヤノベが生み出した巨大な彫刻作品が勢揃いする貴重な機会となった。

会期中は連日、多彩なゲストを招いたトークショーも行われた。大阪中之島美術館の館長・菅谷富夫さん、建築家の遠藤克彦さんが美術館の担う可能性について語り、ヤノベとともにMASKに参画している現代美術家の宇治野宗輝さん、美術家・彫刻家の金氏徹平さん、美術家の久保田弘成さん、アーティストの持田敦子さん、美術作家・舞台演出家のやなぎみわさんら作家6人もオンラインを交えて登壇した。MASKに近接する北加賀屋で私設美術館を構える森村泰昌さんや、同時期に展覧会を開催した増田セバスチャンさんは、地域の中でアート作品を創造する可能性について語り合った。

ヤノベが手掛けた6体の巨大彫刻が一堂に会した今回のファイヤーパフォーマンス。舞台挨拶に立ったヤノベは「《ジャイアント・トらやん》を奈良の大仏さんに、《KOMAINU》を阿形(あぎょう)と吽形(うんぎょう)の仁王像に見立てて、疫病退散を祈りたい」と、MASKでは最後となるイベントに込めた思いを語った。

篠笛・和太鼓奏者の立石雷さんの演奏ともに《ジャイアント・トらやん》はゆっくりと始動する。次第に力強い響きへと変化する和太鼓に合わせて《ジャイアント・トらやん》の口から、次々と炎が放たれた。《ラッキードラゴン》も一緒に火を噴き、《ジャイアント・トらやん》の門出を祝福。2体の巨大彫刻による迫力の炎の共演で、会場の温度は一気に上昇した。

新型コロナ対策として入場者数を制限しての開催となったが、ヤノベは「MASKでの最後となるイベントに、これだけたくさんの人に来てもらえるとは思っていなかった。多くの方々に集まってもらえ、僕も幸せに思います」と話した。はなむけの舞台で万雷の拍手に包まれた《ジャイアント・トらやん》はまもなく、新天地である大阪中之島美術館へと旅立つ。

ヤノベケンジ

現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。『福島ビエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭2013』、『あいちトリエンナーレ2013』に出展。https://www.yanobe.com/