
「歴史的な背景があるのが、フィンランドのパンの面白さ」
現地の味を再現。フィンランドのパン専門店。
キートス 店主 土持裕昭
■食品は、その国の歴史そのもの
ハパンレイパ、カリヤランピーラッカ。まるで呪文のような名前。これらはすべて、フィンランドのパンの名称だ。
全国でも珍しいフィンランドのパン専門店「キートス」。店主の土持裕昭さんは九州・熊本の出身。就職のために上京し、それから流れ流れて京都に根を下ろした。

■2年間のパン修行 単身、北欧フィンランドへ
土持さんは仕事でコーヒーの卸しをしていた関係から、縁あって五条通にあったフィンランド料理のレストラン「フィンランディア」で働いていた。店ではパンの製造に携わっていたが、ベーカリー部門を新たに作ることになり、白羽の矢が立ったのが土持さんだった。
「確か40歳ぐらいのとき。フィランドのベーカリーで2年、修行しました。言葉は話せなかったけど、日本人とフィンランド人はメンタルが似ているせいか、海外にいる感覚がないまま過ごしていましたね。僕が鈍感だったのかなぁ」。
フィンランド料理レストランの閉店を機に独立を決めた。1994年12月の開店だ。「キートス」はフィンランドの言葉で「ありがとう」を意味する。

■パンには歴史というバックグラウンドがある
「酵母はレーズン種の天然酵母。作るパンをイメージして、配合を考えている時が一番、楽しいですね」。
フィンランドの伝統的なパンといえば、ライ麦や大麦を使ったパンが一般的。日本では同じ生地にトッピングを変えることで味の変化をつけるが、フィンランドには全粒粉や穀物入りといった様々な配合の生地があり、それが噛むほどに広がる深い滋味を生む。伝統食であり、健康食。なかには医者に勧められて買い求める常連もいるそうだ。
「それだけでなく、民族的な背景があるのもフィンランドのパンの面白いところです」と土持さん。例えば、薄いライ麦生地でミルク粥を包んだカリヤランピーラッカは、紛争地帯だったカレリア地方のもの。フィンランドでは独立記念日に食べられる国民的な軽食だ。ほかにも、対戦国だったロシアや、かつてフィンランドを統治していたスウェーデンの影響を受けたパンも存在する。
「食品は、その国の歴史そのものです」。
確かに、特にパンのような主食は、その土地の民族性を表す象徴的なもの。食べて美味しいだけでなく、そんな楽しみ方があったとは! 目からウロコだった。
ちなみに、一番、好きなのはライ麦を使ったずっしりしたパン。
「1センチ幅に切って、チーズや魚のマリネ、サラダを乗せて食べるのがおすすめです。余裕があったらベーカリーカフェもしたいんだけどね。現地の食べ方を知ってもらえるので」。
パンを食べて、その背景を知る。冒頭に珍しいと書いたが、やはりほかにはちょっとない、稀有なパン屋である。
(2019年11月10日発行ハンケイ500m vol.52掲載)

キートス
▽TEL:0758420585
▽営業時間:10時~19時
▽定休:火

