ヤノベケンジの世界から語る現代アート

サン・シスター(リバース) 100年の歴史を重ねて、「転生」と「再生」を願う不死鳥

Sun Sister(Rebirth)〈サン・シスター(リバース)〉

FRP 鉄 油圧ポンプ 他
W400cm × D400cm × H400~560cm
2021年
制作協力:
京都芸術大学ウルトラファクトリー プロジェクトチーム
(射場愛、加藤陽香、木曽竣太、白石廉、館花美咲、中野謙、吉越梓、冷銘静)
福島大学附属中学校の皆様

現代美術家ヤノベケンジの大型彫刻作品《サン・シスター》(2014)が、不死鳥をモチーフとする新たな姿《サン・シスター(リバース)》(2021)として、岡山県倉敷市にある大原美術館の新館「新児島館(仮称)」に登場する。コロナ禍の困難な状況にあって、未来をポジティブなものへ変えていくという願いを込めて、衣装は龍や虎など霊獣をモチーフとし、何度でも蘇る不死鳥のように立ち上がる動きを表現した。10月1日から一般公開される。

大原美術館は、社会事業に尽力した実業家の大原孫三郎によって1930年に創立された。洋画家の児島虎次郎がヨーロッパで収集した西洋近代絵画等を展示する美術館として「広く社会に意義あること」を追求した創立以来の願いは今も、「美術館は生きて成長していくもの」という信念として連綿と受け継がれている。

新たに開館する「新児島館(仮称)」は、国登録有形文化財である旧中国銀行倉敷本町出張所を大原美術館が譲り受け、児島虎次郎が集めた美術品を展示するために改修を進めてきた。しかし、折りからのコロナ禍で来館者が減少し、改修資金の調達も困難を極めている。収蔵庫や展示スペースなど全体の完成にはさらなる整備を必要とする状況だが、外観と内装を仕上げ、10月1日からの開館に漕ぎ着けた。

ヤノベは2010年に、大原美術館有隣荘で「幻燈夜会」展を開催している。創立者の大原孫三郎が辰年生まれであり「龍」の意匠を好んだこと、また、児島虎次郎の名前にある「虎」にちなみ、《ラッキードラゴン》(2009)と《トらやん》(2004)のシリーズを出展。さらに大原美術館の歴史と、現代美術家としてのヤノベ自身の記憶を重ね合わせて、ファンタスマゴリア(幻燈機)に着想を得た作品も展示し、来るべき未来のイメージを映し出した。

それから10年が経った今、再びヤノベの手になる《サン・シスター(リバース)》が大原美術館に展示されることとなった。2011年3月11日に発生した東日本大震災と福島第一原子力発電所の災厄から立ち上がるべく、未来への希望を満身に込めてヤノベが制作した《サン・チャイルド》(2011-2012)の“姉のような存在”である《サン・シスター》。瞑想と覚醒の動作を繰り返す姿は、再生と希望を象徴する作品だ。

今回の《サン・シスター(リバース)》でヤノベは、約100年前に建てられた旧中国銀行倉敷本町出張所を、コロナ禍に美術館として再び活用するという歴史を踏まえ、「転生」と「再生」というテーマを重ねた。衣装に取り付けた龍や虎をはじめとする霊獣のレリーフとスカートに垂れる羽は、京都芸術大学、福島大学附属中学の学生たちと共同制作したものだ。

ヤノベは「コロナ禍の閉塞感が漂う状況が続く中でも、新たな一歩を踏み出すことで、未来をポジティブに、明るいものへと変えていく。《サン・シスター(リバース)》に親しんでもらうことで、倉敷の子どもたちや多くの人たちに明るい兆しを届けたい」と話す。

さまざまな思いを纏った火の鳥の羽のようなスカートをひるがえし、何度でも立ち上がる《サン・シスター(リバース)》の姿は、いかなる時も未来を信じて歩みを進めること、その繰り返しこそが未来を創造するというメッセージにも映る。

 

ヤノベケンジ

現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。『福島ビエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭2013』、『あいちトリエンナーレ2013』に出展。https://www.yanobe.com/