ヤノベケンジの世界から語る現代アート

vol.07 ビバ・リバ・プロジェクト:スタンダ

Viva Riva Project: Standa(ビバ・リバ・プロジェクト:スタンダ)

2001年、ヤノベはチェルノブイリの「未来の廃墟」に立ちあがった「再生(リヴァイヴァル)」のモニュメントとして完成させたもの。

1998年の「ルナ・プロジェクト」以降も、ヤノベは様々な「サヴァイヴァル」をテーマにした作品を創作した。しかし、幼少期から心に植え付けられていた「ノストラダムスの大予言」は1999年に的中せず、人類は滅亡しなかった。この出来事と、翌2000年、自身に長男が誕生したことをきっかけとして、ヤノベは「サヴァイヴァル」のシリーズを一度リセット、彼の作品は、ある種、ポジティブな方向へ移行していった。

人間の発育段階で大きなステップともなる「2本足で立つ」という動作。自身の子どもの成長とリンクさせるように、新世紀を迎えるとき、これを人類が新たなステージに踏み込む動作として取り入れてみたい。 そう考えたヤノベは、同時に、人間が「立ち上がる」という行為にも興味を抱き、作品の構想をしていた。

スタンダのモチーフになった、チェルノブイリで訪れた保育園での写真。壁に描かれた太陽の下で、アトムスーツを着て人形を拾いあげるヤノベ。

そんなとき、チェルノブイリに訪問したプロジェクトの写真を見返していると、ヤノベは訪れた保育園で撮った1枚の写真を見つけた。壁に描かれた太陽の絵、床に打ち棄てられた人形、それを拾いあげる「アトムスーツ」を着た自身の姿。ヤノベはその人形を蘇らせようと考えた。この写真をモチーフとして、制作された作品が《ビバ・リバ・プロジェクト:スタンダ》だ。

全長3メートルの子どもの人形を、人間の象徴として登場させ、絶望の背景の中で、新しいエネルギーでシンボリックに蘇らせる作品だ。まるで、あの廃墟の人形が、壁の太陽のふりそそぐ光を浴び、息を吹き返すように。

人形は油圧式で立ち上がる仕組みだが、大きな人形の頭を持ちあげ、バランスよく立ち上がらせるのは難しい。何度も何度も失敗を繰り返した。創作のセオリーとしては、人形のサイズを小さくし、モーターなどを軽くコンパクトにするところ、ヤノベは妥協しなかった。

本田技研のロボット工場や町工場の発明家に相談し、協力してもらいながら、ついに、2001年2月26日、東京の資生堂ギャラリー、リニューアルオープンのこけら落としで成功。人形はゆっくりと希望に満ちて立ち上がった。偶然にもその日は、ヤノベの長男が初めてつかまり立ちをした記念すべき日でもあった。そしてもう1つ、敬愛する岡本太郎氏の誕生日も、同じ2月26日だった。

2019年7月10日発行 ハンケイ500m vol.50 掲載)

 

ヤノベケンジ

現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。『福島ビエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭2013』、『あいちトリエンナーレ2013』に出展。https://www.yanobe.com/