
「自分の好きを見つけて、なにかを残せたら幸せなんじゃないかと思ったんです」
触って、使って、泊まって、買える、京都カルチャー体験型ホテル。
マガザンキョウト 編集長 岩崎達也
■死ぬ時になにができていたら幸せなんやろう?
「好きな人と好きなことを好きな場所でやりたい」。ホテル開業の動機を語る時の、真っ直ぐな目が印象的だった。
岩崎達也さんは兵庫県三木市の農村出身。大阪の大学を卒業した後は関西を離れ、東京にあるマーケティング・コミュニケーション領域の大手企業に就職した。
「当時は紙とWEBの転換期。SNSも今のように普及しておらず、ビジネスにどう使えばいいのかわからない。そんな時代でしたね」。
当初は手探り状態だったが幸いにも時代が追いつき、気がつけば会社を代表するSNSの専門家に。
「でもそれとは別に、『君は本質的には何をしたいの?』と何度も聞かれる社風で、自分は何がしたいんだろうと考える癖がつきました」。

■ニューヨークで雑貨の世界に開眼
繰り返す自問自答。そして導き出された答えが「雑貨」だった。
きっかけは社会人3年目の時、友人を訪ねて行ったニューヨークだ。
「友人が住むブルックリンのシェアハウスに泊まったんですけど、何を見てもカッコいいことに衝撃を受けました」。そして帰国後、現地で買った雑貨をレイアウトした自宅が、女性誌のインテリア特集で紹介された。手応えを感じた岩崎さんは会社を辞めて友人とともに縁のある京都で小さな雑貨店を開く。そこで専業になるかと思いきや、自身は大手IT企業と京都のベンチャー企業に次々と転職。スキルアップと開業資金の確保をしたのちに、満を持して独立した。

■会社を辞めるのに迷いがなかった理由
岩崎さんが渡り歩いたのは錚々(そうそう)たる大企業の役職だ。華々しいキャリアを手放すことに迷いはなかったのだろうか?
「高校時代にプロ野球を目指すほど熱中していた野球が故障でできなくなって、生きている意味と『死ぬ時になにができていたら幸せなんやろう?』と考えた。その問いはずっと続いていて、企業にいることを必須条件にするよりも自分の好きを見つけて、何かを残せた方が幸せだと思ったんです」。
次第に、いろんな個性あふれる仲間たちとプロジェクトを組むのが楽しくなってきた。そうして、雑貨店はクローズ。第2幕の「触って、使って、泊まって、買える、体験型ホテル」こと「マガザンキョウト」は誕生した。
「宿のコンセプトを先輩に話したところ、『岩崎君のやりたいことは雑誌っぽいね』と言われ、しっくりきたんです」。

「マガザン」とはマガジン(雑誌)とイン(宿)を合わせた造語。岩崎さんが得意なのはプロジェクトチームを編成、よりよい誌面ならぬ場所づくりを行なうこと。それゆえ肩書は編集長である。「読者」は1日1組のみ。気になるインデックス(目次)は、滞在を通じて体験する京都の最先端のカルチャーだ。
(2019年3月10日発行ハンケイ500m vol.48掲載)

マガザンキョウト
▽TEL:0752027477
▽営業時間:月・水・金:16時~ 20時、土・日:14時~ 20時
※宿泊は無休

