<出会う>京都のひと

「『今が最高の喫茶店!』 っていう瞬間がある」

おっちゃんが新聞を読むのが似合う、昭和な喫茶店。

チタチタ喫茶  オーナー みよしむつみ

■初対面の人とのコミュニケーションが苦手

文章を書くのも、サボるのも、何をするにも「喫茶店」。彼女にとって喫茶店は、「自分の居場所」そのものだった。

2019年9月で丸10年を迎えた「チタチタ喫茶」。喫茶店をひとりで切り盛りする店主の名前は、みよしむつみさん。ツイッターの店紹介には、自分の性格を指して「つんつんしてる」とある。聞くと「初対面の人とのコミュニケーションが苦手」と。これは、ちょっぴり不器用な彼女が喫茶店を開くまでの物語である。

みよしさんにとって「コーヒーの楽しさを教えてくれた存在」である「珈琲茶館」から仕入れ。ブレンド珈琲400 円(茶菓子付き)

■紆余曲折の時代 喫茶店は癒しの場だった

「私がいなくなっても、なにも変わらへんやんって思ってしまって」。

大学卒業後、就職した一般企業を3年で退職。四条木屋町のイマージアムビルで予約受付のバイトをする日々を過ごしていたが、京都発のフリーペーパー「カイトランド」の求人を耳にし、「流されるまま」に就職。しかし営業職は合うはずもなく、しばらく社会人をお休みすることになる。そんな時期、支えになったのが喫茶店で過ごす時間だった。

「今はもうありませんが、よく通ったのは西大路にあった『コーヒーガーデン』。マスターは自分から話しかけたらしゃべってくれるけど、それ以外は放っておいてくれる距離感が心地よくて」。

喫茶店に憧れ、マスターの修業先だった祇園縄手の「カフェテラス縄手通り」で働くことを決意。高齢だった女将さんの手となり足となり働くうちにすべてをこなせるようになり、そこで初めて自分でも喫茶店ができるかもしれない」という思いが芽生えたという。

コーヒーはハンドドリップの一杯立て。忙しい掛け持ち時代も夢の喫茶店開業に向け、「家でコーヒーを淹れるのだけは毎日欠かさなかった」とみよしさん。

■それぞれの居場所になる そんな風景が見たくて

それからはカフェブームのはしりだった金閣寺の「ロイズガーデン」で店長を経験。人間関係に疲れて辞めた後は「知り合いに会わないから」という理由で京都中央市場に在籍し、精神的に揉まれて無敵の人に。それからは洋食屋、イタリアンの大型店舗、カフェの掛け持ちであらゆるスキルを身につけたが、あと一歩が踏み出せない。そんな時、尊敬する「珈琲茶館」のマスターから、ある言葉を投げかけられる。

「あんたは『喫茶店をやりたいやりたい』と言って死ぬ人間ちゃうか?って言われて、悔しくて泣きましたね。その帰りにたまたま通ったのがこの通りで、その時にこの物件と出会ったんです」。

時代はカフェ全盛期。それでも「コーヒーチケットがあって、おっちゃんが新聞を読んでいるような昭和な喫茶店をやりたい」という思いに迷いはなかった。銀のトレーに乗せて給仕するスタイル、白衣も往年の喫茶店に倣ったものだ。

「店をやっているとたまに『今が最高の喫茶店!』っていう瞬間があるんです。お客さんが本を読んだり思い思いのことをしていて、それぞれの自室のようになっている。そんな風景を見たくて、この仕事を続けているのかもしれません」。

(2019年3月10日発行ハンケイ500m vol.48掲載)

マガジンラックには喫茶店の舞台装置でもあるスポーツ新聞や週刊誌が。そばには老眼鏡も。

チタチタ喫茶

京都市中京区丸太町小川東入横鍛冶町98

▽TEL:0758232121

▽営業時間:8時~ 19時

▽定休:火