<出会う>京都のひと

「自分で試したけど、オリジナルのレシピがいちばん、シンプルでおいしい」

4代目が再興する、おはぎの名店。

今西軒 店主 今西正蔵

■大切にすべきは今西軒のブランド

京都であんこが最も美味しい店として、ここ今西軒の名を挙げる人のなんと多いことか。毎朝9時半の開店を待つ行列が、つやつやのおはぎをさらっていく。3種のおはぎは、きなこ、こしあんの順に売れに売れて、最後のつぶあんはお昼前になくなってしまう。

創業1897年(明治30)のこの名店は順風満帆に続いてきたわけではない。いったんの完全廃業を経て、4代目の今西正蔵さんが再興したことは、ほとんど知られていない。

子どもの頃から毎週祖父の家で過ごし、仏壇のおはぎを食べて育った正蔵さん。味は体に染みついている。きなこ、こしあん、つぶあんの3種。1個190円。

■祖父の跡を継ぐ 3年後に「好きにせい」

「昔、このあたりは東西本願寺に挟まれ、呉服業も栄えて。うちから少し南に下がった六条通は、当時『魚の棚(うおのたな)通』と呼ばれて、人の往来がすごかった。おはぎがいくらでも売れた時代でした」。

今西軒の後を継ぎ、4代目になるはずだった正蔵さんの父親は家業を毛嫌いして、呉服卸を起業。大学在学時から正蔵さんは父の仕事を手伝ったが、性に合わなかった。結婚して子どももできたが、「こんなおもろない仕事で死ぬのはごめんや」と思いながら働いていた。

創業当時から店のしつらえは変わらない。

正蔵さんの職人気質を見抜いていたのはお母さんだ。今西軒は後継者がおらず、1993年に3代目の末一さんが完全に廃業した。2000年、母のアドバイスを受けた正蔵さんが31歳のとき、祖父の末一さんに製法を教えてほしいと頼み込んだ。

「じいさんはもう78歳で、『急がなならん』と。朽ち果てた道具を引っ張り出して、あんこの炊き方を教わりました」。

祖父の朝は3時半に起きて、おくどさんであんこを炊いていた。製法を学びつつ、時代に合わせて正蔵さんはガスに変え、鍋を大きくして、手づくりできる限界まで生産量を増やした。3年後、祖父の「好きにせい」の言葉が免許皆伝の証となった。

こしあんは、約25%の小豆の皮を廃棄するという。「こしあんを手作りするのは効率が悪いんです。こんなふうに作ってる店なんて、絶滅危惧種じゃないか な」と正蔵さん。

■レシピのすごさに 先祖への畏敬の念

和菓子好きから絶大な支持を誇るあんこ、レシピは2代目が考案したものだ。

「他店が必ずしはることを、今西軒ではしない」方針に、正蔵さんは驚いた。たとえばあんこに塩は入れない。水あめも使わない。きなこに入れるのはつぶあんではなくこしあん。

「もっといい作り方があるのではと、別のレシピを自分で試したんやけど、やっぱりオリジナルのレシピがいちばん、シンプルでおいしい」。

2代目から引き継いだレシピのすごさを実感しているがゆえに、ご先祖さまへの感謝は素直に湧いてくる。

「自分がなぜ、この家に生まれてきたのか。ご先祖さんからの因縁を感じる。だからこそ商売の目的は金もうけやない。大切にすべきは今西軒のブランドです」。

正蔵さんの目標は、5代目にブランドと味をつなぐこと。今を生きる人が、先代の仕事を自分なりに解釈して、とらえなおす。そうして、名店は続いていく。

(2019年5月13日発行ハンケイ500m掲載)

今西軒

京都市下京区横諏訪町312

▽TEL:0753515825

▽営業時間:9時半~売切れまで

▽定休:火、第1・3・5月曜(6~8月は定休日・火)