<出会う>京都のひと

「店は広げない。自然な応対でお客さんを迎えたいから」

みずみずしくソフト。地元で愛される老舗豆腐店。
北浦豆腐店 四代目 北浦裕二、北浦信男、北浦キヌコ

■当たり前のことを続けていく

理由は定かではないが、北野天満宮の周辺には昔から豆腐屋が多い。昔ながらの風情を漂わせる「北浦豆腐店」も、そのうちの一軒だ。

「創業者は曾祖父。創業年ははっきりとはわからないんですが、100年は越えていると思います」。

レシピは創業から変わらないという。かつては地下水で満たされていた水槽に真っ白な豆腐が漂う。

■老舗の後継者として。決め手は、趣味との両立

北浦裕二さんは3代目。現在、店は3人体制で、祖母のキヌコさんが接客、そして豆腐の製造は父の信男さんが。残る油揚、厚揚げ、ひろうすの3種を裕二さんが担当している。
店を手伝うようになったのは19歳になってからだった。「父の影響ですね。趣味もしながら仕事をしていたので、いいなぁと思って。製造は朝の7時ぐらいからです」。

自分の趣味と仕事を両立できるライフスタイル。豆腐屋というと夜明け前から仕込みがはじまり、冬は冷水でかじかむ手で豆腐を切る。そんなストイックなイメージを持っていたので、イマドキな回答に、編集部は非常に驚いた。

父、信男さんの現在の趣味はパソコンとドローン。運動好きの裕二さんは閉店後子どもたちに柔道を教えている。まさに街に根ざした豆腐屋だ。

とはいえ、スーパーで格安の豆腐が購入できるこの時代、家族経営の小さな豆腐屋の廃業は後を絶たない。

「小さな店は大体、潰れていますね。昔は老舗の重責は感じなかったけど、今は残せたらいいなと思っています」。

大体10時から11時の間にすべての商品が店頭に並ぶ。ビッグサイズの木綿豆腐、油揚げ各200円、ひろうす( 小)80円。豆腐は他に木綿ソフトとおぼろ豆腐が。天神さんの25日のみ、ぎんなんとゆりね入りのひろうす( 大)が限定販売される。

■気負わず、自然体。日々に寄り添う豆腐

「木綿でもやわらかいのがうちの特徴です。豆腐は成形の時に細かく崩すほど固くなるんですが、うちではそれを大まかにする。するとソフトな食感になる。それから、気温や季節で味が変化するので、親子で話して、微調整しています」。

季節を問わず観光客が多い場所だが、大半が地元の客。上七軒にある中華の名店も「絶妙な固さ」と買い求めにくる。一般の人も「やっぱり、北浦さんの豆腐がえぇ」と通う常連は少なくない。

「うれしいのですが、特別なことはしていないので、なにが違うんやろ? 味だけじゃなく、父の優しい人柄もあるのかな。祖母もよくお客さんと話す人で」。

祖母と父、ふたりの背中を見ながら仕事をしてきた。裕二さん自身もお客さんに寄り添う接客を心がけている。

長く店を続ける秘訣を聞いてみた。そうすると「うーん」と少し困り顔に。「毎日、休まずに店を開ける。当たり前のことを続けていくことですかね」。

当たり前のことを、当たり前に続けてきたからこそ今がある。でも、裕二さんは現在37歳とまだ若い。お店を広げようとは思わないのだろうか。すると今度は少し悩んで「忙しくなると、常連さんに今みたいな、自然な応対ができなくなりそうで。趣味の時間も大切だしね。」と笑った。

(2020年5月10日発行ハンケイ500mvol.55掲載)

天神さんの大鳥居のすぐそば。

北浦豆腐店

京都市上京区馬喰町893

▽TEL:0754623020

▽営業時間:9時頃~17時頃

▽定休:日

最寄りバス停は「北野天満宮前」