<出会う>京都のひと

「足が健康になるインソールを売ることは、 社会的意義がある。拠りどころはこの想いだけでした」

オーダーを受けてつくるインソールの専門店。

フットクリエイト 代表 櫻井寿美、インソールデザイナー 櫻井一男

■見た目はまるでコッペパン

いくら欲しいと言っても、客の足に合っていなければ決して売ってくれない。
そんな靴屋があるらしい。

店の名は「フットクリエイト」。足の専門家がカウンセリングを行いながら、ゲストの足と生活スタイルに合った一足を見つけてくれる、オーダメイドインソールの専門店だ。オープンから23年。店の歴史は同時に、代表を務める櫻井寿美さんとインソールデザイナーの一男さん、夫婦二人三脚の歴史でもある。

カウンセリングではまず、フットスキャナーを使って足底画像を出力し、現在の足の状態を評価。状況改善のための的確なアドバイスが人気。

■靴が原因の足の痛み 自身の体験がきっかけに

「20代のときフィットネスクラブで働いていたのですが、靴はつねにパンプス。足の指がすごく痛くて整形外科に行ったら、湿布をくれるだけ。でも『そんなものかな』と我慢していました」。

そんな時、一男さんが本屋でたまたま手に取った一冊の本。そこには足と靴と健康の関係が詳細に記されていた。その本をきっかけに外反母趾の原因が靴であることを知った寿美さんは、すぐさま著者が経営するドイツ輸入靴の専門店へ。手に入れたのは、オーダーメイドのインソールを敷いた一足の靴。

「つま先が広がっていて、見た目はまるでコッペパン。最初は『こんな変な靴を履くの?』と。でも履いてみたら歩いても痛くない。新鮮な感動がありました」。

足の悩みを抱える人のためになりたい。実体験から、「何かに打たれたように」起業を決意した寿美さん。ちょうどその頃、義母の急逝や人生観を揺るがす阪神大震災を経験したことも背中を押した。

すべてのインソールはCAD を使って自社製作する。「気を抜ける工程はひとつもありません」

■まったくゼロからの起業 でも、自分たちがやらないと

「共働きだった夫婦なのに、起業で同時に会社を辞めました。当時の会社の上司からは『お前らはアホやな』と。でも妻とは意見が一致していた。むしろ親や親戚たちを説得するほうが大変でしたね」。

寿美さんの変化をそばで見ていた一男さんも、時を同じくして足の健康の世界に魅了されていった。

「使命感とかそんなかっこいいものではないけど、私たちがやろうとしていることには社会的意義があると。たくさんの借金をして不安だらけの日々のなか、拠りどころはこの想いだけでした」。

起業するまでは手作業でなにかを作った経験はゼロだった一男さん。現在は設計から調整まで、すべての工程を担当するインソールデザイナーとして、訪れる人の足の健康をサポートする。

インソールは手持ちの靴に敷くだけで足の環境が変わる。インソールと相性のいい靴も取り扱う。

「はきものを見直すなんて簡単なことで足の健康が守れるのに、日本人の意識は昔から変わっていない。そんなに伝わらんか、と。なので、やらないといけないことは山のようにあります」。

寿美さんはTPOに応じたはきものを薦める。ときにハイヒールを履いても、日常で足に合う靴を履けば、健康は守ることができる。「100歳まで元気で歩いて欲しい」と語るふたり。人生の伴歩者として、ひとりひとりの足に寄り添う。

(2019年5月13日発行ハンケイ500m掲載)

フットクリエイト

京都市下京区間之町通上珠数屋町下ル打越町318

▽TEL:0753653748

▽営業時間:10時~18時

▽定休:月・日祝