<出会う>京都のひと

「攻めにいきたい。これはラストチャンスだと」

完全無添加。ビーントゥーバーのチョコレート専門店。
COCO KYOTO 本店 チーフパティシエ 横田克久

■知らない事に出会うとワクワクする

横田さんには、忘れられない光景がある。東京にある修業先のショコラトリーを初めて訪問した時のことだ。
「ショーケースが全部、いろんな形のチョコレートで埋め尽くされていて感動しました。まるで宝石のようで」。

思わず見とれるショーケース。

■和菓子の卸しから、経験ゼロの製造部門に

大のあんこ好きの横田さんは、高校卒業後、和菓子の原材料を扱う問屋に就職した。20歳の時、洋菓子の製造部門に配置替えになった。経験はない。不安になりそうなところを、横田青年は思った。

「『洋菓子職人という道もあるんだな』と。次第に興味が沸いてきて、やらせて欲しいと社長に直訴したんです」。

次なる転機は21歳。今度は社長から東京にあるショコラトリーでの2年間の武者修行を命じられたのだ。修業先は、東京・目白の「99 ROUTE DU CHOCOLAT」。オーナーパティシエは日本におけるチョコレートの先駆者だ。横田さんの言葉をお借りすると、「師匠は厳しくて癖があって怖い人。あと、口が悪い人です(笑)」。

「99 ROUTE DU CHOCOLAT」のチョコの美しさ、味。すべてに魅了された。約束の修行期間が経っても、技術を体得できた気がしなかった。そこで京都に戻らず、「99 ROUTE DU CHOCOLAT」の社員になった。2年も経たずに辞めるスタッフが大半だが、横田さんは13年勤め上げた。

過労で長期入院をした時期がある。「入院中、ベッドでレシピの整理をしている自分がいました。『やっぱりチョコ作りが好きなんだ』と思いましたね」。

ビーントゥーバーとはカカオ豆の選定からチョコになるまでの工程を自社で行うこと。ノンシュガー・グルテンフリー・オーガニック素材がテーマになっており、砂糖の代用には羅漢果やココナッツシュガーを使用。「クセのある天然甘味料とカカオの風味をいかに融合させるか。そこが腕の見せ所」。

■成長するために次のステージへ

回復して店に戻り、オーナーから後継者と目されるようになった横田さん。しかし、今の味では満足できなくなっている自分に気づき、退職を決めた。

京都に戻った後は2つの現場を経て、36歳で「センチュリーホテル」の製菓部門料理長に招聘(しょうへい)される。最新の機械が整い、横田さんにはショコラティエとして最高の環境が準備されていた。
ところが、ビーントゥバーのチョコ専門店「COCO」のパティシエをやらないか、と話を持ちかけられたのだ。「『COCO』のラボに行って、各国の多種多様なカカオを見た時、『やるべきだ』と思いました。自分は常に攻めにいきたい。これはラストチャンスだと」。

「COCO」のオープンから3年。横田さんの作るチョコレートは世界的なコンクールで3年連続入賞を果たしている。「うまいこといった! おいしい! 『新しい発見』が僕の創作の原点です」。

自分が成長できる場に身を置き続けることを躊躇(ちゅうちょ)なく選ぶ横田さん。「チャレンジできることがうれしい」。甘美なチョコレートには、そんな力強いメッセージが込められている。「COCO」のショーケースは、今、宝石のように輝き、未来のショコラティエたちを魅了している。

(2020年3月10日発行ハンケイ500mvol.54掲載)

ビーントゥバーのタブレットとショコラ。「お菓子には作り手が出ます」と横田さん。

COCO KYOTO 本店

京都市中京区西ノ京三条坊町15-3

▽TEL:0758744870

▽営業時間:11時~19時(イートインL.O.18時)

▽定休:火

最寄りバス停は「西大路三条」