<出会う>京都のひと

「喫茶店は憩いの場。リラックスして一服する場所やと思っています」

地元の勤め人が通う、コーヒー専門店。

ギンカコーヒーショップ 豆堂 京都本店 3 代目社長 濱田武雄

■コーヒーを飲んだら、元気になれる

総務省統計局の家計調査によると、2人以上の世帯あたりの年間コーヒー消費量は京都が全国トップ。老舗に加え、最近は気軽なコーヒースタンドの数も激増している。今や京都は日本一のコーヒーの街、そう言っても過言ではない。

銀色に輝くコーヒーの可憐な白い花の香りにちなんだ屋号の「ギンカコーヒーショップ豆堂」。京都店の創業は戦後すぐ、本店は大阪の東心斎橋にある。

調和のとれたバランスで毎日でも飲みたくなる。そんなホットコーヒー350 円は嬉しい小さなお菓子付き。小麦胚芽のパンを使ったトースト類も各種。

■コーヒーの街の礎を築いた功労者

「最近の焙煎はオートメーションでという店も少なくないけど、うちみたいな昔からのコーヒー屋は豆の煎り具合を確認しながらの作業。焙煎機は今もドイツ製のプロバット社のものを使っています」。

1928年、大阪で創業されたコーヒー豆の輸入と焙煎、そして喫茶業。戦時中は豆の調達ができず、やむなく商いを断念した時期もあったが、終戦を迎えて選ばれた土地がここ京都だった。

ギンカコーヒーを戦後、復活させたのは2代目社長の半浦明さん。そしてギンカコーヒーを今の形に育て上げたのが3代目社長の濱田武雄さんだ。濱田さんは18歳で北陸から上京して以来、コーヒー一筋の人生を歩んできた。

現在も現役で焙煎に携わる半浦さん。

■喫茶店のあるべき姿 憩いのためのコーヒーを

一昔前、この辺りは繊維問屋やゴルフ場関連の会社が多く、界隈の勤め人は昼時になると向かいの「お食事処まつもと」で昼食を済ませた後、同僚らとここでコーヒーを飲みながら他愛もない話をして、また会社に戻る。それが日常だった。コーヒーの値段は350円。今でも十分安いが、前はたったの200円だったそう。

「常連さんがお気の毒なので、これ以上は上げられませんわ。この場所で一杯500円とかしてもね。スペシャリティコーヒーが出てきて、コーヒー屋としてはおもしろい時代かもしれんけど、ギンカコーヒーではメインでは扱わないね。喫茶店は憩いの場。リラックスして一服する場所やと思っています」。

高級珈琲専門店として浪花の人々の薫陶を受けてきたギンカコーヒーが京都人の信頼を得た理由は、常連客を大切にしてきたからだ。

昼下がり、カウンターで昔ながらのサイフォンがコポコポと音をたてている。アクの出ない方法で淹れるコーヒーは驚くほどマイルドな飲み口で、するすると喉を通っていくようだ。

「コーヒーはもう昔みたいに特別な飲み物じゃない」。そう濱田さんは嘆くけれど、琥珀色の豆一粒一粒に職人の想いが込められたコーヒーは、昔も、そして今も「特別な飲み物」であることに変わりはないと思う。

「コーヒーを飲んだら元気になれる」。「ごちそうさまでした」。そう言って昭和の雰囲気が残る店から外へ向かって扉を開けると、訪れる前よりもうんと軽い足取りの自分がいた。

(2019年5月13日発行ハンケイ500m掲載)

「うちは豆屋なので」。店内では焙煎所がある大阪本店から届けられる豆の販売もしている。500g1,500 円。内観もさることながら、外観もコーヒー同様に深い味わいが。

ギンカコーヒーショップ 豆堂 京都本店

▽京都市下京区和泉町547

▽TEL:0753517730

▽営業時間:10時~16時

▽定休:土・日・祝