縁の下の力もち

織物の街で働く人々の味方、暮らしに寄り添う老舗製パン所

■河戸晴美(かわと・はるみ)さん
京都市左京区生まれ。大正製パン所三代目河戸舜二さんのもとへ嫁いで42年(※2018年9月10日発行 ハンケイ500m vol.45掲載時)、大正製パン所店長として、パン造りに専念する夫と共に二人三脚で店を切り盛りする。持ち前の笑顔で、お客さんとのコミュニケーションをヒントに、「合格パン」や「冷やし生あんパン」など、新しい人気商品を生み出してきている。

和食のイメージが強い京都だが、実はパンの消費量は日本一を誇る。忙しく働く人々が多いこの街で、パンは手軽に胃袋を満たす存在として、重宝されてきた。
千本今出川の交差点近くにある小さなパン屋「大正製パン所」は、その名の通り大正8(1919)年創業。京都で2番目に古い。一代目の時代からの味や粘りにこだわった低温長時間発酵を守りつつ、食パン、菓子パン、調理パン等を製造・販売。織物の街・西陣で人々の暮らしに寄り添ってきた。

「冷やし生あんパン」は冷えておいしいように生地に油脂を入れるなどの工夫がある。小豆あんに生クリームを加えてあり、ふわっと軽い食感。暑い日は冷凍を買って自然解凍させるのもおすすめ。

「西陣で織物が盛んだった大正から昭和にかけて、番重(ばんじゅう)にパンを並べて積み重ね、織物工場に配達したそうです」と語るのは店長の河戸晴美さん。織物に汚れは大敵。手を汚さずにすむ職人さんの夜食としてジャムパン、クリームパンなどが好まれた。
晴美さんの夫で三代目の舜二さんは昭和40年代、高校生のとき早朝、少量ずつのパンを近隣に宅配していた。家内制手工業で夫も妻も共に働くため、朝は忙しい織物の街ならではの風景だった。
夜と早朝ともの配達を無理なく可能にしたのも、前日のうちに仕込みができるこだわりの低温長時間発酵だ。

パンを収納できる木製のトレイ「ばんじゅう(番重)」は50年もので、歴史を感じる。刷毛で丁寧にパンくずをはらいながら、現役で使い続ける。河戸晴美さんは「来年は創業100年目(※2018年9月10日発行 ハンケイ500m vol.45掲載時)。お客様とのお話から、新商品のアイデアが浮かびます」と話す。

今の西陣は、古い町家がゲストハウスに生まれ変わり、外国人客が増えた。「朝食に買う人も多いですね」、接客から街の変化を感じると晴美さん。いつの時代もパンの老舗は街の人々の暮らしを支えている。
(2018年9月10日発行 ハンケイ500m vol.45掲載)

<共同編集長コラム>

子どもの頃に慣れ親しんだ「近所のパン屋さん」。大人になった今でも変わらないその味は、何気ないけれど、やっぱり特別に懐かしい。創業から1世紀あまり、西陣で生きる人たちとともに歴史を重ねてきた「大正製パン所」。幾多の時代を過ぎても、この街で生まれ育ち、働く人たちの「思い出の味」を作り続ける河戸晴美さんと舜二さん。変わらぬ味を守りながら、新しい味を生み出す2人の仕事ぶりにこそ、確かな「京都らしさ」が息づいています。(龍太郎)

私も力もちです!

西陣の街で織物工場の職人さんや街の人々の暮らしを支え続けてきた大正製パン所と同様、三洋化成も暮らしや産業の様々な分野を支えています。

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