縁の下の力もち

木のおもちゃ作家として、木や森を守り育みながら、持続可能な生き方を目指す。

■多胡歩未(たご・あゆみ)さん
1978年、千葉県生まれ。武蔵野美術大学短期大学の生活デザイン学部卒。企業で2年間おもちゃのデザインをしたのち、2001年ドイツへ渡る。2年間おもちゃ工房で修行して帰国し、2004年、京都府加茂町に木のおもちゃ工房「arumitoy(アルミトイ)」をオープン。「グッド・トイ賞」他受賞多数。木のおもちゃ作家として活躍中。

京都府木津川市にアトリエ「arumitoy」を構える多胡歩未さんは、木のおもちゃを考案し、自ら木材を削って手作りする木のおもちゃ作家だ。
もともとが工作好き。高校の時に「子どもが喜ぶ木のおもちゃを自分の手で作りたい」と武蔵野美術短大でデザインを学ぶ。卒業後は日本のおもちゃ作家を訪問したが、ピンとくる修行先に出会えず、本場ドイツへ行くと決めた。2年間日本でおもちゃ教材会社に就職、企画開発をしてお金を貯めたあと、単身ドイツへ渡った。

ユニークな形状の組み立てる木のおもちゃ(上)と、木の人形をはめる、積み木パズル(下)。

ドイツ語を習得したのち、おもちゃ工房めぐりへ。ドイツ北西部の町ビラーベックで運命の出会いがあった。木でできたおもちゃのキッチンを作るノベルトさんの家を訪れたとき、ひとめで「この人だ!」。頼み込んで住み込みで弟子入りした。
ノベルト師匠の家は古く、工房はかつての牛舎。窓の外には畑が広がり、牛が放牧され、隣の家まで300メートルもある。そして土日は仕事を休み、家を直したり庭に実ったリンゴでケーキを焼いたり。そこには暮らしに向き合う生き方があった。

ドイツのブナの林にて。「ブナ林を歩くと、とても気持ちがいいんです」

帰国して2004年、田園に囲まれた京都府木津川市に工房を構えた。2年後には前号で紹介のモーターパラグライダー多胡光純(たご・てるよし)さんと結婚し、女児を出産する。
「子どもの発達段階を知ることで、おもちゃ作りが変わりました。それまでは面白いと思うものをがむしゃらに作ってきたんですが、〈がらがら〉はつぶす行動が好きな赤ちゃん好み、〈ひも通し〉は2歳児がハマるとわかってきて」と語る多胡さん。それからは、作品に発達段階にあう意味づけが生まれていった。

赤ちゃん用、木製のガラガラ。

5年前にはさらなる気づきがあった。木材は、魚でいえば「切り身」。木が植えられている姿を知らない自分に気づいた。勉強をはじめ、日本の森の惨状を知った。かつて植林されたスギ・ヒノキが外国建材におされて使われなくなり、成長するまま放置されていた。土砂崩れの可能性も高まるので、本来なら数年サイクルで間伐、活用する必要がある。「でも、自然を大切にするために森の木を切ってはいけない、と思い込んでいる日本人が多い。赤道地帯の木材の乱伐と混同されているんです」。

人々が当たり前に森に入り、活動し、生活し、学べる。日本中の森をそんなふうにしたいと多胡さんは考えている。

木を使うことを伝える使命を感じ、ワークショップなどで発信し始めた。林業の時間スケールは100年単位。植える人、管理する人、運ぶ人、製材する人、使う人…それを束ねるコーディネーターも必要だ。広葉樹は落ちて腐葉土となり、そこに溜まる養分の高い水が川となって海に流れ込み、漁業を潤すことも伝えたい。それはドイツで学んだ「暮らしを大切にする生き方」にも通じる。森や田畑の恵みを利用することと、日々の仕事をして暮らしをまっとうすることはすべてつながっている。その循環のなかに持続可能な暮らしがある。

「おうちで遊ぼうプロジェクト」はプロジェクトに賛同する全国の材木関係者に間伐材を提供してもらっている。

多胡さんはステイホーム期間に家にいる子どもたちに身体を使う遊びをさせたいと、間伐材に足形や手形を自分で押した板を並べて遊ぶキットを開発。木のおもちゃと森の活用がつながった瞬間だった。
森を守り育てることは、自然を大切にするだけでなく、人の暮らしを支えることにもつながっている。どちらかが単独で存在するわけではない。木のおもちゃを作りながら、多胡さんはその関係性を伝え続ける。
(2020年7月10日発行 ハンケイ500m vol.56掲載)

「いろんな樹種の木材を扱いたいですね。樹種の個性がおもしろいんです」と話す多胡さん

<共同編集長コラム>

昨今のアウトドア・ブームで、休日に自然の中でキャンプを楽しむ人が増えているといいます。一方で、林業の衰退、ドングリが実る常緑広葉樹の増加など、日本の山林に「人の手」が入る機会が大きく減った結果、シカやイノシシなど野生動物の増加に悩まされている地域も少なくありません。「森を守り育てることは、暮らしを支えること」。木のおもちゃをきっかけに、子どもも大人も誰しもが当たり前に森に入り、自然を楽しむ―。多胡歩未さんの未来予想図には、人と自然の豊かな関係が描かれています。(龍太郎)

私も力もちです!

木のおもちゃから視野を広げ、森を守り育てる必要性を伝え続ける多胡歩未さん。三洋化成も「森づくり活動」で和束の森の間伐を支援しています。

三洋化成社会貢献財団の理事長安藤孝夫が、今年7月、京都の森林を守り育てる「京都モデルフォレスト協会」の理事長に就任しました。

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