
空から見ると「どの土地もスゴイ」。その感動を地元の人に伝えていきたい。
■多胡光純(たご・てるよし)さん
1974年埼玉出身。獨協大学在学中は探検部に所属、北米を探検。卒業後もアルバイトをしながら北米の旅を続けた。2001年よりモーターパラグライダーを学び、2003年より空撮行での撮影を始め、「天空の旅人」の異名をとるように。代表的映像にNHK「紅葉列島空の旅」。▽多胡光純の空の旅⇒https://www.tagoweb.net/
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大自然をモーターパラグライダーで飛んで撮影するスタイルを確立し、追求し続ける唯一無二のカメラマン、多胡光純さん。地上50cm〜5000mの空から多胡さん自身が飛んで撮影する映像は、ヘリともドローンとも異なり、風や気流、温度を感じながら人が撮った臨場感であふれている。

大学で探検部に入り、北米のさまざまな地をカヌーでくだる旅を重ねた。あるとき高い山の上からマッケンジー河を見て、山という限定された場所ではなく、自由自在に空から飛んで眺めたくなった。そこで試行錯誤して、モーターパラグライダーに乗りながら撮影するという方法を思いつく。モーターパラグライダーとは、パラグライダーにプロペラエンジンがついた装置で、1回に3時間ほど、燃料が続く限り飛行できる。
「モーターハンググライダーは飛ぶのに2人必要です。僕は自分1人だけで海外まで運び、現地で組み立てて、飛びたかった。モーターパラグライダーじゃないと実現できなかった」。
第一人者に師事し、2年かけてモーターパラグライダーの操縦をマスター。そして多胡さんは装備をカヌーに積み、マッケンジー河の空を飛んだ。この地を空撮したのは多胡さんが初めてだった。
「空撮映像を地元のインディアンの人たちに見せたら、感激が湧き起こった。地形がわかるだけじゃない。そこに住む動物や山の形。地元の人の暮らしの背景がわかる。その地に住む人たちを理解するのに、空撮は最高の方法なんです」。
目新しいモーターパラグライダーによる撮影にテレビや広告制作会社からの依頼が入り、空撮が仕事となった。しかし、仕事の撮影と撮りたいもののバランスに悩んだ時期もある。
「僕は本当のことが知りたい。その地に暮らす人のために撮影して、高みからの映像を見てもらいたい。地元の人とその感動を分かち合いたい。その思いでふっ切れました」。

結婚して京都の木津川市に拠点を構えた。木津川の源流をはじめ、長崎、マダガスカル、大分。今まで地元の人がみたことがなかった空からの風景を追い続ける。
印象的だったのは北海道の大雪山。雄大な自然が広がる国立公園に隣接する大雪高原には、大雪山の雪解け水を用いた農地が広がる。長さが一辺400mもある大根畑の広大さ、そこを耕すトラクターの巨大さ。上映会は盛り上がった。

多胡さんは、大雪高原の大根は京都青果市場に出荷され、刺身のツマとして高値で取引されたり、漬物として京都の食卓にのぼったりしていると知った。大雪山の雪解け水が京都の食の一部を支えている。北海道で、京都とつながる不思議な縁。そんな発見がおもしろくて、多胡さんは次の天空に駆り立てられる。

今まで世界7カ国、国内外356カ所の空を飛んだ多胡さん。「どこが一番美しかったですか?」という質問が一番困ると笑う。
「どこも等しく美しい。『あなたが暮らす土地は、世界の絶景と変わらないくらい素敵な場所です』と伝えるのが自分の使命です。一生をかけて取り組みます」。
空撮映像が紡ぐ物語を見ると、地元が宝物に思えてくる。多胡さんの目線は今後、人々の暮らしを足元から支えていくに違いない。
(2020年5月10日発行ハンケイ500m vol.55掲載)
<共同編集長コラム>
鳥のように大空を自由に飛び、地上を眺めてみたい―。誰しもが一度は想像するそんな夢を、ひたむきな努力と行動力で実現した多胡光純さん。白い雲の上をモーターパラグライダーで飛ぶ多胡さんの姿は、まさに「天空の旅人」。富士山よりはるかに高い上空5000mから撮影された空撮映像は、私たちが日々の暮らしを営む場所を未知の視点から眺めることで、それまで気付かなかった土地と人々の物語を教えてくれます。多胡さんが撮影した空撮動画はYouTubeの「TAGO channel(タゴ チャンネル)」でも配信中。生身の息遣いを感じる空撮映像の数々は、私たちをともに空の旅へ誘います。自然と人間、その大いなる可能性を探求し続ける多胡さんの旅は、まだまだ未知の発見にあふれています。(龍太郎)
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私も力もちです!
モーターパラグライダーによる空撮で、地元の人々にその土地への発見を共有する多胡さんは、そこに住む人の足元を支える縁の下の力もち。多胡さん同様に、三洋化成はさまざまな機能性化学品の提供を通じて、暮らしや産業の様々な分野を支えています。

