
「常連さんから『こうちゃんって、どうでもいいことよく知ってんな』って言われたよ」
木屋町と共に40年。知識豊富なマスターが待つ、小バコバー。
booze.K 店主 山本晃史
■飲み屋には、飲み屋のルールがある
「母が京都人。親父が早くに亡くなってね。それでおばあちゃんと住むことになって、小1で鳥取の境港からこっちに。母の仕事の都合で西院、修学院、最後が淀。伏見工業高校の建築学科を出て建築会社に勤めたけど、2年で辞めて。それから友人の紹介で四条木屋町にあったサントリー系列の『ポテト&コーン』でバーテンをすることになったんです」。
これが今から40年前、マスターの山本晃史(やまもとこうじ)さんがバーの扉を開けるまでのいきさつだ。それからはもっといろんな酒を扱いたいと、老舗のクラブやレストランパブといった酒場を転々。バブル前夜、バブル真っ最中、バブル後。カウンターの中から狂騒の時代を眺めてきた。
「30歳から10年間働いた店では、祇園で飲んできたお客さんのためにドンペリをよく抜いてたね。全員がゴールドのネックレスをして、不動産屋。『ラムネちゃうねんぞ』って思いながら」
バブルの後、39歳の時に独立。バーテンダーとしての自分を育ててくれた木屋町で、決意表明として「晃史」のイニシャルの入った看板を揚げた。

■会話を楽しむ場所、それがバー
「自分が経験したことがない話を聞かせてもらえる。バーはそれがおもしろい」。 山本さんも話すように、やはりバーの醍醐味は会話に尽きる。さまざまなタイプのバーテンがいるが、山本さんはこうだ。
「前に常連さんから『こうちゃんって、どうでもいいことよく知ってんな』って言われたよ。ウィキペディアを見ていたら間違ってる箇所がわかる。雑学が好きなんやね」。
思えば、百科事典を眺めるのが好きな少年だった。山本さんと会話をしていると、どんな球を投げてもこちらがキャッチしやすい球で打ち返してくれるような、そんな安心感がある。ミスター赤ヘルこと野球界のレジェンドと名前が同じなのは、ただの偶然だ。

■空気を作るのもマスターの仕事
今も衰えぬ知的好奇心は、「おつまみ」でも発揮される。ここのカウンターでは山本さんが発掘した、見たこともないユニークなアテが日常茶飯で登場する。たとえば殻つきのマカデミアンナッツ。
「このマカデミアンナッツはストレスが多い女性におすすめ。人間関係と同じでね、割り切った方がいいよ」。
軽妙な返しに自然と笑顔になる。小さな悩みの類いは、やはりバーで飲んで忘れるのが一番。そしてバーとはそのような場所であるからこそ、店の空気を操るマスターの手腕が問われる。
「ここには、ここのルールがある。それが飲み屋の在り方です。もちろん、気取りたい人には気取らせてあげる。でも品格が大切。美しくないと」。
大人の社交場とはよく言ったもの。バーはやっぱりおもしろいし、そして奥が深い。
(2019年7月10日発行ハンケイ500m掲載)

booze.K
▽京都市中京区西木屋町通四条上ル紙屋町367 たかせ会館1F
▽TEL:09020187839
▽営業時間:20時~翌4時
▽定休:木

