縁の下の力もち

「障害」があっても可能性を見限らない。本来の力を引き出し活躍できる社会を目指す。

■革靴をはいた猫 魚見航大(うおみ・こうた)さん=写真左端
1994年、広島生まれ。三重の高校を経て龍谷大学政策学部へ進学、学部のプロジェクトで構内の 「力フェ樹林」を知り、障害者とともに靴磨きを学び、出張靴磨き業を始めた。2017年3月、卒業直前に「株式会社 革靴をはいた猫」を設立、代表取締役となる。2018年、靴磨きと靴修理の実店舗「革靴をはいた猫」もオープン。出張靴磨きに加え、持ち込み・宅配での靴磨きに正社員5人で応じている。

京都市役所近く、御池通に面した「革靴をはいた猫」は英国調の設(しつら)えの靴磨き・靴修理の店だ。力ウンターではベストにネクタイ姿の店長、 副店長らが、布や指先まで使う靴の鏡面磨きに余念がない。

「革の毛穴にまで塗り込んで磨くことで鏡のようになります。ウィスキーでワックスの固さを調節するなど職人のノウハウもあります」と語るのは代表の魚見航大さん。

代表の魚見さん達が修行した靴磨き店は英国風。そこで学んだスタイルを踏襲して、スタッフたちはスーツとネクタイ姿。ホテルからも声がかかる。「『利他』的な事業の根幹は、龍谷大学の風土のおかげです」と話す。

龍谷大在学中、構内の福祉作業所「力フェ樹林」の活動に関わり、知的・発達障害者らが社会で自立して働く道を模索した。その過程で 「何かをしてあげる」のではなく、未来の可能性を「引き出し合う」ことだと学び、一生ものの職人技術として靴磨きに着目。プロの技術をともに学び、障害者らと学生の皆が「職人」としての意識と立場で、企業への出張靴磨き事業を始めた。

「革靴をはいた猫」の藤井店長は時間をかけて顔が映るほどピカピカに靴を磨き上げる。靴磨きについて、質問されるのが嬉しい。

卒業の頃には技術面、社交面において皆が大きく成長していることを実感。確かな手応えを感じる中、更なる可能性を信じて起業した。1年後、メンバーのひとりが「自分の店を持ちたい」と希望。写真現像店の協力を受け、好立地の現店舗が実現した。今や店には他県からも靴が送られて来るほか、店長らは開業希望の人に仕事を教えるまでになっている。

一人の人間としての性格や熱意、 可能性を引き出し、活かし合うことは、すべての人が生きやすい持続可能な社会を目指し支えることでもある。京都の一角で福祉を越えた事業を、5名の若者たちが展開している。

(2020年3月10日発行ハンケイ500m vol.54掲載)

<共同編集長コラム>

スニーカーと違い「革靴をはく」ということは、少し特別な意味があるように思います。晴れて迎える成人式、入学式や入社式、大切なひとの結婚式。あるいは、重要なビジネスシーンで。職人の技で磨き上げられた革靴は、それぞれの人生に訪れる大切な場面できっと、その人を勇気づけてくれる。「靴磨き」という仕事に懸ける魚見航大さんと仲間たちの情熱。足元の革靴を一片の曇りなく、艶やかに輝かせたいという職人たちの思いは、可能性を信じて挑戦を続けるすべての人とともに、一歩一歩、世界を広げていく力になると感じました。それにしても、ウイスキー入りのワックス…。スコッチ党としては大いに興味を惹かれます。(龍太郎)

私も力もちです!

いろいろな能力を持つ人が多様性を活かし合う「革靴をはいた猫」と同様に、三洋化成は多様性を活かすダイバーシティに注力し、機能性化学品を通じて、暮らしや産業のさまざまな分野を支えています。

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