<出会う>京都のひと

「すでにあるものではなく、新しい植物のかたちを作りたい」

店主のフルネームを掲げる、植物店。

田中美穂植物店 店主 田中美穂

■店は、やりたいことの塊

田中美穂さんは植物の申し子だ。生コンクリートの運転手と植木屋という2足のわらじを履くユニークな父と、花を愛する母の元に生まれた。生まれた時から身の回りに鉢物の植木がいっぱいあった。

「普通は売れ残った鉢は処分するんですが、父はそのまま家に持ち帰るんです。剪定もせずに家の周りにぎゅうぎゅうに置いてあると、日が当たらないので枝がひょろっと変なかたちになるんです」。

そんな形の植物が、田中美穂さんは好きだった。

店内には創作意欲を刺激する素材がたくさん。疏水沿いのそばに小さな店舗を構える。「オープンした時は若い人がやっている店はまったくなかった」。

■視野を広げてくれた師との出会い

2004年に浄土寺に誕生したわずか2坪半の植物店。城陽育ちの田中美穂さんは銅駝美術工芸高校の服飾科に進学。高校2年のとき寺町三条の喫茶店でバイトを始めた。喫茶店の2代目店主との出会いが、その後の人生に影響を与えた。

「店主もバイトもお客さんも変わった人ばかり。そこではレコードミュージックや食、いろいろを教わりました。あとは、影響と真似はどう違うのかとかも」。

それまでは「漫画の『行け!稲中卓球部』みたいな絵」を描いていた美穂さん、絵のタッチは変わった。成安造形大学に進学、卒業後はベジタリアンの店や内装の手伝いで働いた。父親の後ろ姿を見ていたため、会社勤めは選択肢にはなかった。まるで百葉箱のような店舗デザインを共に考え、独立に向けて背中を押してくれたのも師と仰ぐ、件の店主だった。

「そのときの私が、最も知識があったのが植木だったので植物店にしました。師匠から大きな影響を受けたのですが、次第に自分が見つけたもので認められたい思いが強くなっていきました」。

田中さんがいよいよ自分らしさを出せるようになってきたのは、10年以上過ぎた2016年ぐらいのことだ。

「わびさびも好きだけど、本当は派手な色も好き。高校の時、好きな色が1つに選べなくて虹色と答えたぐらい」。

田中さんのイラストを立体化した作品。異素材同士を組み合わせた、新しい植物だ。

■異素材で再構築させた植物の、その先。

「店は、やりたいことの塊」。そう話す田中さんにとって、田中美穂植物店は美術の実験場であり、作品を生み出すアトリエだ。一般的な植物店とは少し様子が違う理由はそこにある。一歩足を踏み込むと、植木の他に制作に使うカラフルな糸や枯れ枝が高く積み上げられた空間。ここは、創造を育む巣箱だ。

浄土寺エリアには一言では語り尽くせない肩書きの店が多いが、こちらもまさしく。あえて言うなら「植物をテーマにした店」だ。不思議な枝振りの植木と、プラスチック製の造花を分解し、自然の枯れ枝と組み合わせて再構築させた創作植物。田中さんにとっては、どちらも「植物」に変わりない。

「すでにあるものではなく、新しい植物のかたちを作りたい」。

今年、「田中美穂植物店」は開店から15周年を迎えた。

(2019年9月10日発行ハンケイ500mvol.51掲載)

一口に植木といっても小ぶりの鉢物が大半なので、一人暮らしの部屋にもしっくり馴染む。

田中美穂植物店

京都市左京区浄土寺下南田町37-4
▽TEL:09092722422
▽営業時間:10時半~ 16 時半

▽定休:日